2020-01-01から1年間の記事一覧

ムラムラ ムラ社会に自立、自律した女性が

突囲表演 (河出文庫) 作者:残雪 発売日: 2020/09/05 メディア: 文庫 『突囲表演』残雪著 近藤直子訳を読む。残雪は短篇集など何冊か読んだことがある。 「五香街(ウーシャンチェ)」にやって来たX女史。夫と「煎り豆屋」を開く。 何せ見慣れたメンツの街にニ…

「social」は「社会」と訳されるが

社会 (思考のフロンティア 第II期) 作者:市野川 容孝 発売日: 2018/03/15 メディア: Kindle版 「social」と「社会」、日本語訳のズレやブレ みんな大好きなSNS。ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略だけど、ソーシャルって…

男を食いものにする。マジ

ピュア 作者:小野 美由紀 発売日: 2020/04/16 メディア: Kindle版 『ピュア』小野美由紀著を読む。 韓国小説にはフェミニズムをテーマにしたSFがある。日本の小説だとぱっと浮かぶのが村田沙耶香。村田沙耶香の世界をさらに過激にしたのが本作かな。 「ピュ…

ベリーベリーブラッドベリ―日本オリジナル初期短篇集

黒いカーニバル (ハヤカワ文庫SF) 作者:レイ ブラッドベリ 発売日: 2013/09/05 メディア: 文庫 『黒いカーニバル』レイ・ブラッドベリ著 伊藤典夫訳を読む。初期の作品集。ファンタジックなSF作家の巨人と思われるが、この本には奇想的なものとホラー的なも…

男の闇日記ならぬ病み日記 ほか

オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選 (光文社古典新訳文庫 Aモ 2-4) 作者:モーパッサン 発売日: 2020/09/09 メディア: 文庫 『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選』モーパッサン著 太田浩一訳を読む。モーパッサン、初読かも。虫食い読み、世界文学。 …

やりきれない

魂の労働―ネオリベラリズムの権力論 作者:渋谷 望 発売日: 2003/10/01 メディア: 単行本 「魂の労働―ネオリベラリズムの権力論」渋谷望著を読んだ。よくまとまっていて、読みやすい。オツムのいい大学生または院生が書いたようなデキのいいレポート。が、読…

オオサカといえばなおみ、ぼくの場合、最近オオサカといえば圭吉

死の快走船 (創元推理文庫) 作者:大阪 圭吉 発売日: 2020/08/12 メディア: 文庫 『死の快走船』大阪圭吉著を読む。鮎川哲也編『怪奇探偵小説集1』で大阪の『幽霊妻』を読んだのが最初。 作風の異なる15の作品。ピッチャーなら七色の変化球というが、作家はど…

「二項対立」には眉唾(まゆつば)と「アイロニー」で

「分かりやすさ」の罠―アイロニカルな批評宣言 (ちくま新書) 作者:仲正 昌樹 メディア: 新書 「「分かりやすさ」の罠―アイロニカルな批評宣言」仲正昌樹著の読書メモ。 あれか、これかとすぐ判断や踏み絵を求められるいま。保守-革新、大きな政府-小さな政府…

言葉にできるものと言葉にできないもの、そのはざまで

理由のない場所 作者:リー,イーユン 発売日: 2020/05/19 メディア: 単行本 『理由のない場所』イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳を読む。 16歳で自死した息子。鬱病から自殺未遂をしたことのある母親。対象喪失を乗り越えようとしたのか作家である母親はこの作…

変わった?変わらない?

“フェミニン”の哲学 作者:後藤 浩子 発売日: 2006/04/01 メディア: 単行本 「<フェミニンの哲学>」後藤浩子著を読んだ。 「はじめに」でこんな文章と遭遇する。 「「フェミニズムって何ですか」―これは、簡単なようでいて、私にとってはもっとも手ごわい、…

妖怪人間と怪獣

怪獣篇 群猫/マタンゴ (SFショートストーリー傑作セレクション 第二期) 発売日: 2020/08/03 メディア: 単行本 YouTubeで『妖怪人間ベム』を見るのが、最近の楽しみ。子どものとき、見ていたのだが、改めて見ると、かなり怖い。ここ数年好きになってゴースト…

『銀の仮面』と同様に本作でも人間の嫌な一面をこれでもかとひんむいている

暗い広場の上で (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 作者:ヒュー・ウォルポール 発売日: 2004/08/10 メディア: 新書 『暗い広場の上で』ヒュー・ウォルポール著 澄木柚訳を読む。 頃は第一次世界大戦後、年末。ところは花のロンドン・ピカディリーサーカス。や…

堕ちていく男。名前はビリー・ブレイク

冷たい雨。キンモクセイのオレンジ色の花が路上に。 囁く谺 (創元推理文庫) 作者:ミネット ウォルターズ メディア: 文庫 『囁く谺』ミネット・ウォルターズ著 成川裕子訳を読む。 ロンドンのある邸宅のガレージに潜り込んだホームレスが餓死した。名前はビリ…

『ウイルスVS人類』―VSは正しいのか

ウイルスVS人類 (文春新書) 作者:瀬名 秀明,押谷 仁,五箇 公一,岡部 信彦,河岡 義裕,大曲 貴夫,NHK取材班 発売日: 2020/06/19 メディア: Kindle版 『ウイルスVS人類』瀬名秀明 押谷仁 五箇公一 岡部信彦 河岡義裕 大曲貴夫 NHK取材班を読む。NHKBS1の『BS1ス…

「自然という古文書を読み解く」

絶滅恐竜からのメッセージ―地球大異変と人間圏 (Wac bunko) 作者:松井 孝典 発売日: 2002/03/01 メディア: 単行本 『絶滅恐竜からのメッセージ 地球大異変と人間圏』松井孝典著を読む。 恐竜はなぜ絶滅したか。ご存知のように実にさまざまな説がある。「哺乳…

なぜか、なぜか

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫) 作者:コルタサル 発売日: 1992/07/16 メディア: 文庫 『悪魔の涎・追い求める男他八篇―コルタサル短篇集』コルタサル著 木村榮一訳を読む。『秘密の武器』『遊戯の終わり』コルタサル著 木村榮一…

三題噺 コルタサル ミケランジェロ・アントニオーニ チャーリー・パーカー

秘密の武器 (岩波文庫) 作者:コルタサル 発売日: 2012/07/19 メディア: 文庫 『秘密の武器』コルタサル著 木村榮一訳を読む。 『母の手紙』ルイスは兄のフィアンセ・ラウラを横取りして結婚。パリで暮らしている。兄は死んだのに、ブエノスアイレスに住む母…

元祖何でも見て野郎

ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への讃歌 (岩波新書) 作者:川端 康雄 発売日: 2020/07/18 メディア: 新書 『ジョージ・オーウェル―「人間らしさ」への讃歌』川端康雄著を読む。 190㎝余りの長身痩躯、病弱なのにヘビースモーカー。代表作である『動物…

純文学とSFとエンタメ系が渾然一体、『冬至草』。新作が待たれる作家の一人

冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション) 作者:石黒 達昌 発売日: 2006/06/01 メディア: 単行本 『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』伴名練編のレビューで『雪女』石黒達昌を取りあげた。 昔書いた『冬至草』石黒達昌のレビューをたまたま見つけたの…

「臨床心理士」、沖縄の「野の医者」体当たりレポート

野の医者は笑う―心の治療とは何か?― 作者:東畑開人 発売日: 2017/04/07 メディア: Kindle版 『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』東畑開人著を読む。 パワースポットや占いなど根強いスピリチュアルブーム。 「占いはごく身近な治療文化である」「私たちが…

お厚いのはお好き?

ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ 作者:乗代 雄介 発売日: 2020/07/18 メディア: 単行本 『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』乗代雄介著を読む。 版元は国書刊行会。重量級の本を出す出版社ならチャンピオン。最後まで読めるかと思ったら、わりか…

ヒガン前にイーガン

ビット・プレイヤー (ハヤカワ文庫SF) 作者:グレッグ イーガン 発売日: 2019/03/31 メディア: Kindle版 『ビット・プレイヤー』グレッグ・イーガン著 山岸真編・訳を読む。 グレッグ・イーガンは長篇と短篇を何作か読んだことがある。圧倒されて「すげえ!す…

SFエヴァンジェリストは言う、「読んでくれ」「書いてくれ」と

日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族 (ハヤカワ文庫JA) 発売日: 2020/07/16 メディア: Kindle版 『日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族』伴名練編を読む。 [怪奇篇]の方が[恋愛篇]よりも個人的にしっくりくる。 埋もれている日本の名作SF短篇を若い読者…

アンソロ爺(ジー)

20世紀ラテンアメリカ短篇選 (岩波文庫) 発売日: 2019/03/16 メディア: 文庫 アンソロジー好きの爺だからアンソロ爺。「広告批評」の天野祐吉のブログのタイトルはあんこ好きだからあんころ爺。非暴力主義の爺はガン爺。デジタル・ガジェット好きの爺はファ…

『ポップス大作戦』で小旅行

ポップス大作戦 作者:花, 武田 発売日: 2020/06/24 メディア: 単行本 『ポップス大作戦』武田花著を読む。久しぶり。著者といえば、モノクロ写真(とりわけ猫)と個性的な文章。なんだけど、この本では初のカラー写真がふんだんに。 陰影を帯びたカラー写真。…

「東京大学「80年代地下文化論」講義」宮沢章夫著の読書メモ兼インスパイアされた事柄

東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版 作者:宮沢章夫 発売日: 2015/11/05 メディア: 単行本 昔、書いたの、長いんですが。その頃よりも、withコロナのいま、状況は悪くなっているんじゃないかな。 「おたく」から「OTAKU」へ 「80年代について語ることほ…

「コレラノ作品ヲオ読ミクダサイ」―日本SFナビ本

日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙 (ハヤカワ文庫JA) 発売日: 2020/07/16 メディア: 文庫 『日本SFの臨界点[恋愛篇]死んだ恋人からの手紙』伴名練編を読む。 この手のアンソロジーは、感覚としては隠れた名盤・名曲発掘に近い。編者が述べている…

小説の神様が微笑むまで

マーティン・イーデン (エクス・リブリス・クラシックス) 作者:ジャック・ロンドン 発売日: 2018/09/19 メディア: 単行本 『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン著 辻井栄滋訳を読む。 主人公は貧しい若者。彼・マーティン・イーデンがハイソな年上の…

その男、「プロフェッショナル」につき

男 (講談社文芸文庫) 作者:幸田 文 発売日: 2020/07/13 メディア: 文庫 『男』幸田文著を読む。好みの男性とか男性論とか書いたのかな。まさかと思いつつ読む。 違った。男の職業人、つづめて職人にしてもいい。さまざまな仕事で「プロフェッショナル」であ…

青いソーダ水とコルタサル

遊戯の終わり (岩波文庫) 作者:コルタサル 発売日: 2012/06/16 メディア: 文庫 『遊戯の終わり』コルタサル著 木村榮一訳を読む。 コルタサルの幻想小説、奇想小説の魅力ってなんだろう。 あり得ないことがあり得る、あり得た。しかも、それがポップ(仮)だか…