文人物理学者 寺田寅彦―『吾輩は猫である』の水島寒月のモデル

『寺田寅彦随筆集』(岩波文庫)の第一巻目を読む。 科学者でありながら名エッセイストの誉れ高き作者のありようは、大げさにいえば、理と文系の統一のさきがけ。作者にならえば科学と芸術か。文学の師が、夏目漱石。 最初の『どんぐり』でKOされた。亡き妻と…

通販カタログは、リアル売場よりも、リアルな売場をめざす

『なぜ通販で買うのですか』斎藤駿著を読む。 「猫は液体」という『通販生活』のCMが最近のお気に入り。わが家の猫トリオも、金魚鉢に入るだろう、きっと。 で、『通販生活』を出している『カタログハウス』の前社長が著した新書のレビューを昔、書いていた…

神は、脳が創った―サイバーテロの恐怖

『The S.O.U.P.』川端裕人著を読む。 作者はデビュー作である『夏のロケット』では、ロケット。『リスクテイカー』では、ヘッジファンド、次の『ニコチアナ』では、タバコ及びタバコ産業について書いている。本作ではインターネットについてである。 『S.O.U…

『スローターハウス5』がポジなら、『チャンピオンたちの朝食』はネガの関係だとか

『チャンピオンたちの朝食』カート・ヴォネガット・ジュニア著 浅倉久志訳 を読む。 覚えている。アメリカで発売されるや否や若者たちから熱狂的な支持を受けたことを。で、この作品は縁が無くてようやく初読となる。 「訳者あとがき」によると、インタビュ…

「苦取(くとる)大明神」を信奉していた中須磨家で起きた連続殺人事件。怪談作家が呪われた謎に挑む

テレビの2時間ドラマ風の見出し。 『赤虫村の怪談』大島清昭著を読む。 愛媛県の草深い山中にある赤虫村。ここは、妖怪譚の宝庫。まるで岩手県の遠野のように。民俗学者で妖怪を研究している者にとっては、憧れの地かも。呻木叫子(うめききょうこ)もその一人…

国家は地図、拳は戦争―虚実ないまぜの重厚な都市語り

『地図と拳』小川哲著を読む。 満州が舞台。母の親戚が満州鉄道に勤務していたことを知り、満州に興味を覚えた。 満洲映画協会会長甘粕正彦、関東軍・作戦主任参謀の石原莞爾、関東軍司令部参謀の辻政信など満州国建国にあたり跳梁跋扈した群像劇かと思った…

漫画家版青の時代

『トキワ荘の青春』監督市川準を見る。 日本一有名なアパートがトキワ荘だ。手塚治虫が仕事場にし、それから、石森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄、水野英子など日本の漫画の一時代を築く漫画家が棲みつくのだが、そのトキワ荘の長兄的存在だったのが、寺田…

「労働」か「仕事」か

『人間の条件』ハンナ・ アレント著 志水 速雄訳を読む。 この本でハンナ・アレントは、「労働」と「仕事」を分けている。 訳者解説によると 「「労働」が消費と結びつき、人間の肉体的生命の維持に専心する「活動力」だとすれば、「仕事」は消費に抵抗し、…

クラスメイトが暮らすメイトに―シン家族物語

『プリテンド・ファーザー』白岩玄著を読む。 恭平と章吾は高校の同級生。偶然、再開して二人のいまが似ていることに驚く。どちらもシングルファーザーということ。 恭平は4歳の女の子を、章吾は1歳半の男の子を育てている。厳密に言うと章吾の妻は単身で中…

不条理を嗤え!ともかく嗤え!

『浴槽で発見された手記』スタニスワフ・レム著 村手義治訳を読む。 『SFする思考: 荒巻義雄評論集成』荒巻義雄著でこの本のレビューを読んで刺激を受けたから。 絶版らしく古書価格が高価。ダメもとで行きつけの図書館の蔵書をネット検索したら、保存庫に眠…

なぜジャズは好きで嫌いなのか

www.youtube.com ジャズは、昔つきあった女に似ている。あるいはケンカ別れしたビジネスパートナーにも似ている。いまだに好きであったり、嫌いであったり。どうしてるんだろう、元気なのかな。と、頭の中がグルグルしてきて、三半規管がおかしくなりそうに…

弾劾の断崖へ

『母なる夜』カート・ヴォネガット著 池澤夏樹訳を読む。 第二次世界大戦中、ハワード・W・キャンベル・ジュニアはアメリカ人でありながらナチス・ドイツの「ラジオプロパガンダ」を請け負い、スパイとして活躍した、いわゆる売国奴。ところが、実態はダブ…

世界の終わりとハードボイルド・ボコノン教

『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット・ジュニア著 伊藤典夫訳を読む。きっかけは、『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳-藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち-』邵丹著を読んだから。 カート・ヴォネガットの本を読んだのは大学生以来。今年は…

じれったい。じれったい。じれったい

『落下する夕方』江國香織著を読む。 はじめにタイトルにひかれた。カンディンスキーやミロあたりがつけそうな良いタイトルである。 『落下する夕方』、それは何を象徴しているんだろう。落日の恋かもしれない。恋がキラキラしていて、甘いのって、ほんの一…

読めども、読めども―なぜ、ぼくたちはSFを読むのか

『SFする思考: 荒巻義雄評論集成』荒巻義雄著を読む。 キャリア半世紀。その間、書かれた評論らレビューなどを、まさに網羅した一冊。こんな分厚い本は国書刊行会?違う、違う、そうじゃない。小鳥遊書房から。 作者はSF作家でもあるが、評論家でもある。大学…

その開いた瞳孔に、ラブクラフトが見せるもの

『アウトサイダー クトゥルー神話傑作選』H.P.ラヴクラフト著 南條竹則編訳を読む。 見えないから怖いのか。然り。見えるから怖いのか。然り。異形の者に慄くのもわかるが、普段とは違う姿を見せる、意外な本性を現わす人間にもビビる。幽霊の正体が実は枯尾…

スパークスはナンバーワンよりオンリーワン

www.youtube.com 1月1日と2日の朝は、日本酒を吞むことにしている。父、義父、叔父など酒呑みの故人を偲んで。ほんとは、吞みたいから。 アマプラで映画『スパークス・ブラザーズ』を見る。スパークスは兄弟変態バンドとか音楽センスの良さなどうっすらとは…

タンゲくんに、ダンケ―かわいくないところが、かわいい

あけましておめでとうございます。今年も良い一年でありますように。今年のレビューは、絵本から。 『タンゲくん』 片山健著を読む。 タンゲくんは、猫だ。どうしてタンゲくんかというと、傷を負って片方の目が、見えないからだ。丹下左膳のサゼンから名前が…

「クン」づけで呼ばれたい女(ひと)

『男たちへ フツウの男をフツウでない男にするための54章』塩野七生著を読む。 時々無性に女の人から「クン」づけで呼ばれたくなる。駆け出しの頃は、女性のグラフィックデザイナーやコピーライター、スタイリストから「クン」づけでいろんな雑用を言いつ…

信ずれば死ぬ?バタくさい、スタイリッシュな今風のホラー小説

『とらすの子』芦花公園著を読む。ライター坂本美羽、中学生・川島希彦、女性警察官・白石瞳。3人の絡み合う不思議な縁で話はすすむ。 不可解な殺人事件が連続して起こる。snsで殺人事件の真相を知っているというミライと会うことになった三流オカルト雑誌の…

風街は、何処に在る

『風のくわるてつと』松本 隆著を読む。 嘘のような話だが、かつて、日本語ではロックは成立しない。というのが、まかり通っていた頃があった。その定説を覆したのが、何を隠そう、松本隆である。はっぴいえんどのドラマー兼作詞家から、アグネス・チャン、…

赦せるもの、赦せないもの

『金輪際』車谷長吉著を読む。 滅び行く私小説の継承者と目された直木賞作家の短編集。全7篇のテーマは、「ルサンチマン」(私怨)である。 本作の最初の作品「静かな家」を読んで、そのうまさに恐れ入り、こりゃ一気に読むのは勿体ないと思った。なかなか…

アート驚く おかんアート

『Museum of Mom’s Art-探すのをやめたときに見つかるもの-』都築響一著を読む。というか見る。 いわゆる「おかんアート」の本。ふつうのお母さんやおばあさんが、そこらへんにあったひもやリボンを創意工夫して動物や人形をこしらえる。リ…

スタイリッシュな「科学の社会論」

『自然 まだ見ぬ記憶へ』港千尋著を読む。 クローン羊ドリーが誕生してから、わずかな年月で本格的なヒト胚のクローニング研究に着手している。このES細胞は、あらゆる器官をつくる始原細胞、文字通り「ヒトの種子」として、新薬治療の開発から移植用臓器…

見えるもの、見えないもの、見えてくるもの、見えなくなるもの

『陽だまりの果て』大濱普美子著を読む。 光ではなく翳。太陽ではなく月。若さではなく老い。日常の中の非日常。それは特異体験ではなく、誰もが経験する体験。現(うつつ)と夢、健常と非健常の区切りはきちんと線引きできるように思えるが、その境界は実は曖…

温泉好意症―おんせんへ行きたしと思へども

『日本一周ローカル線温泉旅』嵐山光三郎著を読む。 温泉へ行きたい。リゾートだの、ホテルだのは遠慮したいな。性に合わない。旅館がいい。かといって名旅館はごめんだ。肩が凝る。第一、路銭がはなはだ心もとない。心付なんか幾らすればいいのかわからない…

リア充に不可欠な「贈与」って

『世界は贈与でできている-資本主義の「すきま」を埋める倫理学-』近内悠太著を読む。「贈与」というと、マルセル・モースの贈与論やポトラッチあたりかなと思って読んだらハズレでした。 作者は贈与をこのように定義づけている。 「僕らが必要としている…

「はじめに(光あれという)言葉ありき」―カート・ヴォネガットが書いたクリスマス絵本

『お日さまお月さまお星さま』カート・ヴォネガット著 アイヴァン・チャマイエフ〔画〕著 浅倉久志訳を読む。 絵を手がけたアイヴァン・チャマイエフは、「モービル、MoMAなど世界の名だたるトレードマークのデザイン」で知られる。はじめに彼の絵がありき。…

翻訳をめぐる冒険―新しい外国文学には新しい翻訳を

『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳-藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち-』邵丹著を読む。 膨大な資料にあたり「翻訳」を考察している。ただ内容がカブっているところが結構あるので、なんとかうまく整理してレビューにしたいと思う。 作者が…

男の美貌は、七難、隠す

『幻滅-メディア戦記』((上)(下))バルザック著 鹿島 茂 編さん 野崎 歓 訳を読む。 出版社はひと山当てるために血眼になって新しい才能を探す。当たれば、豪遊、別荘、パトロンだってほいほい運転資金を融資してくれる。一方、ごまんといる小説家志望…