「奇想文学の名手」とは言い得て妙

日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽 (ハヤカワ文庫JA) 作者:中井 紀夫 早川書房 Amazon 『日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽』中井紀夫著 伴名練編を読む。 作者は、伴名練曰く「ボルヘスやカルヴィーノ、マジックリアリズムの影響を受け」たそう…

『ピンク・シャドウ』を聴きながら

『恐怖 アーサー・マッケン傑作選』平井呈一訳を読んでも涼しくならない。で、冗談伯爵の『ピンク・シャドウ』を聴いている。名曲だ。YouTubeの動画を貼るんで聞き比べてほしい。 www.youtube.com 『ピンク・シャドウ』冗談伯爵ぼったくり男爵ならぬ冗談伯爵…

探偵は古書店にいる

愛についてのデッサン ――野呂邦暢作品集 (ちくま文庫) 作者:野呂 邦暢 筑摩書房 Amazon 『愛についてのデッサン――野呂邦暢作品集』野呂邦暢著を読む。 表題作に特化したレビュー。 主人公は佐古啓介。元編集者、現在は古本屋の二代目店主。彼は父親が亡くな…

「第13あかねマンション」の怪って…ホラーじゃないのに。たくもう!

新井素子SF&ファンタジーコレクション2 扉を開けて 二分割幽霊綺譚 作者:新井 素子 柏書房 Amazon 『新井素子SF&ファンタジーコレクション2 二分割幽霊綺譚 扉を開けて』新井素子著 日下三蔵編を読む。以下2篇の感想や感想や感想やあらすじを。 『扉を開けて…

ふと、大江健三郎の短篇集が読みたくなって

僕が本当に若かった頃 (講談社文芸文庫) 作者:大江 健三郎 講談社 Amazon 『僕が本当に若かった頃』 大江健三郎著を読む。 初期の作品である『奇妙な仕事』や『死者の奢り』を読んだときは、衝撃を受けた。大江作品イコール重厚長大のイメージが強いが、『奇…

私は何人(なんぴと)とて束縛できる。でも、束縛はされない

聖母 作者:レオポルト・フォン ザッハー=マゾッホ 中央公論新社 Amazon 『聖母』L.v.S=マゾッホ著 藤川芳朗訳を読む。 ヒロインは―あるいはマドンナか―異端宗派の女性教祖マルドナ。その美貌とグラマラスな肢体はカルト宗教の広告塔として布教に光を与える。…

チベット史が学べる、でも、活劇としても読める。不謹慎かもしれないが

白い鶴よ、翼を貸しておくれ 作者:ツェワン・イシェ・ペンバ 書肆侃侃房 Amazon 『白い鶴よ、翼を貸しておくれ-チベットの愛と戦いの物語-』ツェワン・イシェ・ペンバ著 星泉訳を読む。 1925年、新婚ほやほやのアメリカ人宣教師スティーブンス夫妻が、はる…

『悪魔に仕える牧師』って誰?

悪魔に仕える牧師 作者:リチャード・ドーキンス 早川書房 Amazon 『悪魔に仕える牧師』リチャード・ドーキンス、読了。 タイトルは、「ダーウィンが『進化論』を発表したら、『悪魔に仕える牧師』」といわれ、何されるかわからないから、なかなか『種の起源…

マゾッホとは思えないほどのハッピーエンドやほのぼのとした話もある

ユダヤ人の生活―マゾッホ短編小説集 作者:L・v・ザッハー=マゾッホ 柏書房 Amazon 『ユダヤ人の生活―マゾッホ短編小説集』 L・V・ザッハー=マゾッホ著 中澤 英雄訳を読む。 昔、ロンドンで山高帽に長いアゴヒゲ、黒ずくめの男性集団を見かけた。異様に思えた…

「灰色の脳細胞」を持つカイゼル髭のベルギー人

ポアロ登場 (クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー,真崎 義博 早川書房 Amazon 『ポアロ登場』アガサ・クリスティー著 真崎義博訳を読む。 「名探偵エルキュール・ポアロ」の短篇集。ハンプティ・ダンプティのような体躯の小男のベルギー人。滔々と…

雨降りだから『ロリータ』でも読んでみよう

ロリータ (新潮文庫) 作者:ウラジーミル ナボコフ 新潮社 Amazon 憂鬱な梅雨。『ロリータ』ウラジミール・ナボコフ著 若島正訳を読んだ。 そう、ロリータ・コンプレックス、ロリコンの語源となった作品。この言葉だけが独り歩きしているが、先日も渋谷で久々…

緑色の髪の少女

新井素子SF&ファンタジーコレクション1 いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム 作者:新井 素子 柏書房 Amazon 『新井素子SF&ファンタジーコレクション 1』新井素子著 日下三蔵編を読む。 『甘美で甘いキス 吸血鬼コンピレーション』に収められた『…

足止めを食らった旅人たちへ

四分の一世界旅行記 作者:石川 宗生 東京創元社 Amazon 『四分の一世界旅行記』 石川宗生著を読む。 作者のことだから何か古い偽旅行記を読んでいるうちにその時代にタイムトラベルしてしまう、そんな奇想小説をイメージして読み始めた。あれれ、ガチ旅行記…

見えない壁、壁を壊しても新たにつくられる心の壁

「日本人」の境界―沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮 植民地支配から復帰運動まで 作者:小熊 英二 新曜社 Amazon 『<日本人>の境界―沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮 植民地支配から復帰運動まで。』小熊英二著を読む。作者の博士論文だったそうで、例によって部厚く、重た…

「分解の哲学」を分解する

分解の哲学――腐敗と発酵をめぐる思考 作者:藤原 辰史 青土社 Amazon 『分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考』藤原辰史著を読む。 福岡ハカセの「動的平衡」を「分解の哲学」の端緒にして。 「生物学者の福岡伸一も、生命が「合成することよりも、分解すること…

「評価しないけど受け入れる」「嫌いだけれど共存する」―ロジャー・ウィリアムズに学ぶ

不寛容論: アメリカが生んだ「共存」の哲学 (新潮選書) 作者:森本 あんり 新潮社 Amazon 『不寛容論-アメリカが生んだ「共存」の哲学-』森本あんり著を読む。 イギリスから新天地アメリカへ渡ったピューリタンがアメリカを建国した。歴史の時間で学んだ。…

ハルヲファンはぜひ!ハルヲファンでない人も

調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝 作者:近田 春夫 リトル・モア Amazon 『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』を読む。70年の人生と半世紀にわたる音楽人生が書かれている。週末に一気読み。 とりとめのない感想を。 ぼくがはじめて彼を見たのは『ぎんざN…

人生のマウントを取る女

魂を漁る女 (中公文庫) 作者:レオポルド・フォン・ザッハー=マゾッホ 中央公論新社 Amazon 『魂を漁る女』レオポルド・フォン・ザッハー=マゾッホ著 藤川芳朗訳を読む。 青年士官ツェジム。その幼馴染のドラゴミラ。ツェジムは、久しぶりに会った彼女の美し…

不器用ですから。不器量ですから

事故係 生稲昇太の多感 (講談社文庫) 作者:首藤瓜於 講談社 Amazon 『事故係 生稲昇太の多感』首藤瓜於著を読む。 『脳男』で江戸川乱歩賞を受賞した作者の受賞後第一作。この受賞第一作というのは、とかく真価を問われるものらしいのだが。おどろおどろしい…

正統派のメールヘンと大人のメールヘンと

くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女 (光文社古典新訳文庫) 作者:ホフマン 光文社 Amazon 『くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女』E.T.A.ホフマン著 大島かおり訳を読む。 『くるみ割り人形とねずみの王さま』チャイコフスキーの『…

「B級エンタテイメントとしての推理小説のパロディ」少しは期待したのだが…

反復(新装版) 作者:アラン・ロブ=グリエ 白水社 Amazon アラン・ロブ=グリエの『反復』、読み終える。訳者の平岡篤頼があとがきでロブ=グリエと食わず嫌いせずに、深読みしたり、構えずに、ミステリー(ただしオチのない、謎解きのない)として読んでほしいと…

ネヴァーランドはマーダーランド

ティンカー・ベル殺し (創元クライム・クラブ) 作者:小林 泰三 東京創元社 Amazon 『ティンカー・ベル殺し』小林 泰三著を読む。 『ピーター・パン』と聞くと子ども向けミュージカルの定番コンテンツ。ディズニーのアニメ版に刷り込まれたぼくはピーター・パ…

コーランやイスラム教を知るには絶好の入門書

コーランを知っていますか (新潮文庫) 作者:阿刀田 高 新潮社 Amazon 『コーランを知っていますか』阿刀田高著をつらつらと読む。 作者が日本人にはなじみの薄い、というよりも名前は知っているけど、中身に関してはほとんど知られていないコーランを噛み砕…

美男VSブ男―花の色は 移りにけりな

美男の立身、ブ男の逆襲 (文春新書 (440)) 作者:大塚 ひかり 文藝春秋 Amazon 『美男の立身、ブ男の逆襲』大塚ひかり著を読了。 この手の論考を書かせたら、西の横綱が井上章一なら東の横綱が大塚ひかりだ。と、ぼくは個人的に思っている。この本ではついに…

ビバ!メヒコ 堀口大學、メキシコへ

SEMANA TRAGICA 悲劇週間 (文春文庫) 作者:矢作 俊彦 文藝春秋 Amazon 『悲劇週間―SEMANA TRAGICA』矢作俊彦著、読了。 『月下の一群』など、翻訳というよりも、原文である欧文を新しい日本語として書き換えた堀口大學。後の日本の作家に与えたインパクトを…

「エドガー・ポーを読む人は更にホフマンに遡らざるべからず」

黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ (光文社古典新訳文庫) 作者:ホフマン 光文社 Amazon 『黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ』E.T.A.ホフマン著 大島かおり訳を読む。 『黄金の壺』いやはや、これはまばゆいばかりの幻想的な世界が行間からダダ漏…

人を喰ったようなタイトルのクールなゾンビ・ミステリ―

わざわざゾンビを殺す人間なんていない。 作者:小林 泰三 一迅社 Amazon 『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』小林泰三著を読む。 ゾンビというと、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』が浮かぶ。モノクロ画面で首を傾げ行…

ミス・マープルのデビュー作 13の短篇集

火曜クラブ (クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー,中村 妙子 早川書房 Amazon つらつらと読むアガサ・クリスティー短篇集。 『火曜クラブ』アガサ・クリスティー著 中村妙子訳を読む。 作者の作品ではエルキュール・ポアロと並んで人気のミス・マー…

対話の愉しさ、面白さが味わえる。知的セッション、10番勝負

知の変貌・知の現在―中村雄二郎対話集 作者:中村 雄二郎 青土社 Amazon 『知の変貌・知の現在 中村雄二郎対話集』中村雄二郎著を読む。 作者は対話の名手である。たぶん、それは、作者が聞き上手なのだろう。自分のフィールドとは異なった人と語り合う。作者…

地球外生命体とのリアルファーストコンタクト

ブラインドサイト〈上〉 (創元SF文庫) 作者:ピーター ワッツ 東京創元社 Amazon ブラインドサイト〈下〉 (創元SF文庫) 作者:ピーター ワッツ 東京創元社 Amazon 『ブラインドサイト』(上)(下)ピーター・ワッツ著 嶋田 洋一 訳を読む。 地球にやってきた「655…