生き方としてのインターネット。その光と影

ネクスト 作者:マイケル ルイス アスペクト Amazon 『ネクスト』マイケル・ルイス著 熊谷千寿訳を読む。 インターネットではプロもアマもない。大人も子どももない。男と女もない。阪本啓一氏の著作『パーミション・マーケティングの未来』からの言説を付加…

1960年代の「死の家の記録」

穴持たずども (ロシア語文学のミノタウロスたち) 作者:ユーリー・マムレーエフ 白水社 Amazon 『穴持たずども』ユーリー・マムレーエフ著 松下 隆志訳を読む。 まずは、チモフェイ・レシェトフの解説から、この作品が書かれた時代背景を引用。 「スターリン…

クラシックな文学の香り、漂う、怖い話

ゴースト・ストーリー傑作選――英米女性作家8短篇 作者:川本静子・佐藤宏子 みすず書房 Amazon 『ゴースト・ストーリー傑作選 英米女性作家8短篇』川本静子・佐藤宏子編訳を読む。 「19世紀半ばから20世紀初頭」ブームとなったゴースト・ストーリー。訳者あと…

気分は『フィネガンズ・ウエイク』を読んだダブリン市民

エセ物語 (対抗言論叢書 3) 作者:室井 光広 法政大学出版局 Amazon 『エセ物語』室井光広著を、やっとこさ、読む。 作者、最後の未完の長篇小説。すごいと思う。面白いとは思う。しかし、しかし、ちゃっちゃとは読めない。とにかく時間をかけて読み進める。…

『きみの友だち』or『君の友だち(You've Got a Friend)』

きみの友だち(新潮文庫) 作者:重松 清 新潮社 Amazon 子どもが読みたくて近所の書店を数件回っても見つからなかった重松清著の『きみの友だち』。妻がamazonで頼んだら、翌日には届いた。町の小さな書店はかなわないわけだ。あっという間に読んでしまった…

ユーモラスな無頼派―木山捷平伝

木山さん、捷平さん 作者:岩阪 恵子 新潮社 Amazon 『木山さん、捷平さん』岩阪恵子著を読む。閉めていた日本文学の引き出しを久しぶりに開けさせられた。 評伝を書くために作者は資料を漁る。木山にゆかりのある土地を訪ねる。そうこうしているうちに、作者…

境界域は文明の揺りかご

文明の交流史観: 日本文明のなかの世界文明 (MINERVA歴史・文化ライブラリー 8) 作者:小林 道憲 ミネルヴァ書房 Amazon 『文明の交流史観―日本文明のなかの世界文明』小林道憲著を読む。以下メモ。 ○梅棹忠夫の『文明の生態史観』批判 文明とはそれぞれが独…

天才哲学者の傲慢とか自信のなさとか覗き読み

ウィトゲンシュタイン 哲学宗教日記 作者:ル-トヴィッヒ・ウィトゲンシュタイン 講談社 Amazon 『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記―1930‐1932/1936‐1937』(すごい邦訳)イルゾ・ゾマヴィラ編 鬼界彰夫訳を、少しずつ読んでいる。少しずつしか読めないんだけ…

日本とドイツ、同じ敗戦国でありながら異なる道へ

日本とドイツ 二つの戦後思想 (光文社新書) 作者:仲正 昌樹 光文社 Amazon 『日本とドイツ 二つの戦後思想』仲正昌樹を読む。 敗戦国である両国が戦後から現在までどのような思想の変遷があったかを明瞭にまとめてある。いわば、思索の交通整理的本。作者の…

アマゾンの物流センターのルポを読んで『蟹工船』を思い出した

アマゾン・ドット・コムの光と影 作者:横田増生 情報センター出版局 Amazon そういえばアマゾンの物流センターに潜り込んで本を書いた人がいたことを思い出した。それが、この本、『潜入ルポ アマゾンドットコムの光と影―躍進するIT企業・階層化する労働現場…

ナウい翻訳でよみがえる漢詩、感じいい

いつかたこぶねになる日 (新潮文庫 お 115-1) 作者:小津 夜景 新潮社 Amazon 『いつかたこぶねになる日』 小津 夜景著を読む。 俳句や短歌は、このところ、若い人が現われて活況を呈している。読み手よりも詠み手が多いといわれているが。かつての敬老会の趣…

なかった市場をつくり、先行者利益をいただくのが「ブルー・オーシャン」

[新版]ブルー・オーシャン戦略 作者:W・チャン・キム,レネ・モボルニュ ダイヤモンド社 Amazon 『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』W・チャン・キム+レム・モボルニュ著を読む。 要するに同じ土俵(市場)で勝負するな。勝負するなら、違…

決して他人事ではない7つの科学に関する事件

科学事件 (岩波新書 新赤版 663) 作者:柴田 鉄治 岩波書店 Amazon 『科学事件』柴田鉄治著を読む。 新聞や雑誌を読む。TVのニュースやワイドショーを見る。あるいは会社や近所の人との話から。昨今ではsnsか。現代人は、さまざまな情報をメディアから入手…

来る来ない 来た

だれか、来る 作者:ヨン・フォッセ 白水社 Amazon 『だれか、来る』 ヨン・フォッセ著 河合純枝訳を読む。 「2023年ノーベル文学賞を受賞した、ノルウェーを代表する劇作家の」「初の日本語訳本」。『だれか、来る』は戯曲。戯曲、なんか読みにくい。いやい…

おどるでく、踊る木偶、オドラデク

おどるでく-猫又伝奇集 (中公文庫 む 33-1) 作者:室井 光広 中央公論新社 Amazon 『おどるでく-猫又伝奇集』室井光広著を読む。 『猫又拾遺』は作者の出身地である南会津を「猫又」と名付け、不可思議な話を集めた短篇集。宮沢賢治は岩手県を「イーハトーボ…

つながりすぎない、つながり―ネットの普遍的なキイワードは「リンク」「シェア」「フラット」+「グローバル」

インターネット的 (PHP新書) 作者:糸井重里 PHP研究所 Amazon 『インターネット的』糸井重里著を久々に再読する。昔、書いたレビューを。 「インターネット」と「インターネット的」とは、どう違うのか。「インターネット」は、通信メディアの一手段、作者は…

多文化主義の必然性とは

アラブ政治の今を読む 作者:池内 恵 中央公論新社 Amazon 『アラブ政治の今を読む』池内恵著を読む。 作者よりも、父親や伯父さんの方がぼくにはなじみが深い。何せ父親がカフカ&温泉狂、伯父さんが理系の教授&名エッセイストとして知られる。 読んでいて思…

ゾンビのように甦るリバータリアニズム

リバータリアニズム入門―現代アメリカの〈民衆の保守思想〉 作者:デイヴィッド ボウツ 洋泉社 Amazon 『リバータリアニズム入門―現代アメリカの「民衆の保守思想」』デイヴィッド・ボウツ著を読む。 まず、二ヵ所引用してみる。 a.「今日、有権者の怒りの感…

戦争による帰国。船上で去来したものは

日米交換船 作者:鶴見 俊輔,加藤 典洋,黒川 創 新潮社 Amazon 『日米交換船』鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創著を読む。 最初の鼎談がひじょうにすばらしく、いままで鶴見が明かさなかった留学時代、留学船、「日米交換船」*など、第二次世界大戦の様子が生々し…

30世紀。人は「器官なき身体」か「身体なき器官」か

ディアスポラ 作者:グレッグ イーガン 早川書房 Amazon 『ディアスポラ』グレッグ・イーガン著 山岸真訳を読む。物理学書、宗教書(?)と思って読めばいいのかな。と覚悟して読んだら、そうでもなかった。 翻訳がいいのか、歯が立たなくてもへっちゃら!と非-S…

芸術家な日々。描かずに、造らずにいられない

テレピン月日 作者:大竹 伸朗 晶文社 Amazon 『テレピン月日』大竹伸朗著を読む。 作者のデビューシーンは、鮮烈だった。ニューペインティング(懐かし!)がアートシーンで注目されていた頃。横尾忠則は画家宣言しちゃうわ。個人的には、ジュリアン・シュナ…

媚びずに、生きる女

流れる (新潮文庫) 作者:文, 幸田 新潮社 Amazon 『流れる』幸田文著を読む。 舞台は東京・柳橋、斜陽がかった芸者の置屋。そこで女中として働くことになったワケありの素人の中年女性が足を踏み入れることから小説は始まる。彼女の目を通して、柳橋界隈や花…

「建物はその建つ『場所』に従え」

前川國男 賊軍の将 作者:宮内 嘉久 晶文社 Amazon 『前川國男 賊軍の将』宮内嘉久著を読む。 江戸東京たてもの園に前川の私邸が移築されている。師匠のコルビュジエが晩年に建てた有名な南仏の小屋に勝るとも劣らない暮らしやすそうなモダンな木の家だった。…

「人間の知能」を紐解く古典的名著。ほんのさわりを

心の社会 作者:Marvin Minsky,マーヴィン・ミンスキー 産業図書 Amazon 『心の社会』マーヴィン・ミンスキー著 安西 祐一郎訳を読む。「人間の知能」を紐解く大著。章立てを眺めているだけでも楽しい。さわりだけ紹介。 ミンスキー教授曰く、「心とは、「一…

これでもか、これでもかと露わになる人間の暴力性、卑しさ

大丈夫な人 (エクス・リブリス) 作者:カン・ファギル 白水社 Amazon 『大丈夫な人』 カン・ファギル著 小山内 園子訳を読む。 人は理性や知性、常識でコーティングしているが、それがひょんなことで剝がれると野生、いや、野蛮、粗暴さが顔を覗かせる。見た…

近過去が消えてゆく都市、東京

郊外の文学誌 作者:川本 三郎 新潮社 Amazon 『郊外の文学誌』川本三郎著を読む。 東京で暮らし始めて、驚くのは、文学者の生誕の地や終焉の地だのといった碑に出くわすのが多いことだ。えっ、こんな繁華街に住居を構えていた? 一瞬、そう思うのだが、渋谷…

カリーと愛国―インド独立運動の志士だったボース

中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義 作者:中島 岳志 白水社 Amazon 『中村屋のボース― インド独立運動と近代日本のアジア主義』中島岳志著を読む。 パンとカリーで知られる新宿中村屋の婿殿となった亡命インド人過激派・ボースの数奇な一…

進化もしくは新化するマンガ。さて、マンガ評論はどうだ?

テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ (星海社新書) 作者:伊藤 剛 星海社 Amazon 『テヅカイズデッド ひらかれたマンガ表現論へ』伊藤剛著を読む。 そういえば、山手線で高田馬場駅に到着すると、ホームから『鉄腕アトム』のジングルが流れる。か…

ロックンロール創世記、神話、叙事詩

ロックンロール七部作 作者:古川 日出男 集英社 Amazon 『ロックンロール七部作』古川日出男著を読む。 ワールドワイドなロックンロールの創世記、神話、叙事詩である。作者は村上春樹へのオマージュ本を出しているが、この本はひょっとして片岡義男の『ぼく…

クオリア学序説―「脳の中の1000億の神経細胞の活動から、クオリアに満ちた私たちの意識がどう生まれるか」

脳の中の小さな神々 作者:茂木 健一郎 柏書房 Amazon 『脳の中の小さな神々』 茂木 健一郎著 歌田 明弘 聞き手を読む。 相変わらず、脳ブームらしい。腸活の方がブームか。脳関連の本が多く刊行され、TVの特番などでも取り上げられることが多くて、脳研究も…