エッジの利いた深夜アニメのようだ

 

 

『飛ぶ男』安部公房著を読む。安部公房って実に久々。

 

著者の死後、「フロッピーディスクに遺されていた」原稿。ミュージシャンなら未発表音源(ってぼくの常套句)。『飛ぶ男』と『さまざまな父』の2篇。

 

冒頭部。夏の明け方、謎の「物体」が飛翔した。某国の飛翔体ではなく、人間だった。それが、「飛ぶ男」。目撃者は3人。主人公の「保根治 男 36歳 中学教師」「不眠症」に悩む。「仮面鬱病」と「逆行性迷走症候群」を患っている。小柄で何もかも丸いメガネっ娘。「男性不信の29歳独身女性」「小文字並子」。もう一人が暴力団員。

 

「飛ぶ男」は、保根を兄さんと呼ぶが、彼には弟は存在しない。ところが、「嘘も百回言えば真実となる」ように、弟かもしれないと思うように。「飛ぶ男」が暴行魔と勘違いされ、「小文字並子」に空気銃で撃たれ、ケガしていた。


「飛ぶ男」の職業は「スプーン曲げ」。スプーン曲げ少年?いやいや、もうオトナなんだけど。彼女はなぜか彼が逃げ込んだ保根の部屋へやって来る。

 

フィリップ・K・ディックばりの暴力とスピードと不条理と黒い笑い。延々と書かれたパンツとブリーフの違いのくだりなど。保根の目の前で起きていることは、現実なのか、持病から来る妄想なのか。なんかドラッグでラリっているシーンにも似ている。庵野秀明の映画にも通じるものが。

 

アニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』や『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のスピーディーかつ大胆なアングルのフライングシーンをイメージした。だが、待てよ。この「飛ぶ男」、「時速2、3キロで滑空する」と書いてある。遅くね。鳥の速さをヤホー(byナイツ)したら、「1位はハヤブサ、時速180キロ」、スズメでさえ「時速45キロ」だそうだ。

 

アニメーションだと関係性が不明でも、1クール10話完結、最終話で無理やり大団円にしても、文句はつかないが、なぜか小説だとストーリーが破綻しているとか、矛盾しているとか、厳しくないか。この本は未完の書なんで、そんなことは言われないと思うけどね。

 

『飛ぶ男』と『さまざまな父』。関連性はあるので、作者が存命してたら、どう完結したのか。未完とはいえ、それぞれに、読ませる内容ゆえ、惜しいなと。『死者の帝国』のように、円城塔あたりに続きを依頼するはどうかな。と勝手に思う。

 

余談

昔、パルコ劇場で作者の演劇を見に行ったことがある。大胆なダンスパフォーマンスと音楽と舞台装置。演劇弱者のぼくは、不覚にも後半、熟睡してしまった。

 

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