2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

露光する愛―泣く女は、撮る女で、獲る女で、執る女で、キスする女

たまもの (ちくま文庫) 作者:神藏 美子 筑摩書房 Amazon 『たまもの』神蔵美子著を読む。 表紙に使われた、泣いているセルフポートレイトの写真に、ノックアウトされた。 それがすべてを物語る。 一人の女が二人の愛する男についての写真と文章。一人は編集…

良い酔い宵

ウィスキーボンボン 作者:山本 昌代 講談社 Amazon 『ウィスキーボンボン』山本昌代著を読む。 たぶん、「山本昌代」と言うよりも、「『居酒屋ゆうれい』の作者」と言う方が、通りは良いだろう。作者の書くものには、時代劇ものと現代ものの2方向があるが、…

吹雪の中、ドクトルは「黒い病」のワクチンを届けることができるのか。「こんにゃろめ…」

吹雪 作者:ウラジーミル・ソローキン 河出書房新社 Amazon 『吹雪』ウラジーミル・ソローキン著 松下隆志訳を読む。 ストーリーは、著者の作品にしてはきわめてシンプル。ドクトル、プラトン・イリイチ・ガーリンは「ボリビア」が感染源とされる「黒い病」の…

ここにないどこか・どこにもないここ

Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学 アーティスト:小沢健二 ユニバーサル ミュージック (e) Amazon 『Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学』小沢健二を久しぶりに聴く。 全編インストでヴォーカルは、なし。 フリッパーズ・ギターを以前所属していた…

ガンボ(アメリカ南部のソウルフード)のような知的ごった煮の黒人音楽史

黒人音楽史-奇想の宇宙 (単行本) 作者:後藤 護 中央公論新社 Amazon 『黒人音楽史-奇想の宇宙-』後藤護著を読む。 黒人音楽好きと言っても、ブルースやジャズ、ファンクとヒップホップと好みが分かれる。で、そのカテゴリーごとに専門の評論家やライターが…

進化を遂げた新人類の憎しみと哀しみ

ジーンリッチの復讐 作者:山川健一 幻冬舎 Amazon 『ジーンリッチの復讐』山川健一著を読む。 舞台は、2020年の日本。経済はさらに悪化して、政治も破綻状態。回収されないゴミが悪臭を放つスラム街と化した渋谷から物語は、はじまる。主人公は18歳。…

水俣病患者たちの生々しい生

下下戦記 (文春文庫) 作者:吉田 司 文藝春秋 Amazon にしてもだ、『下下戦記(げげせんき)』吉田司著の重々しさは、なんだ。あ、タイトル見て『ゲド戦記』だと思ったでしょ、違うんだな、これが。 ある意味、もっとすごい。 あやうく仕事が手につかなくなるほ…

03年生まれ、金子文子。95年生まれ、高島鈴

布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章 作者:高島 鈴 人文書院 Amazon 『布団の中から蜂起せよ-アナーカ・フェミニズムのための断章-』高島鈴著を読む。 作者がいう「アナーカ・フェミニスト」とは、「アナキストというだけでも、フェ…

「『資本論』を読む」のではなく「『資本論』も読む」。このスタンスでマルクスを読み解く

『資本論』も読む (幻冬舎文庫) 作者:宮沢章夫 幻冬舎 Amazon 『『資本論』も読む』宮沢章夫著を読む。このおもしろさは、も少し脚光を浴びてもいいのになあ。ぼくはたいそう腑に落ちた。 作者同様にぼくもずううっと『資本論』を読まなきゃとは思っているが…

「リバタリアニズム」と「リベラル」って、どう違うんだろう

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書) 作者:森村 進 講談社 Amazon 昨今気になる言葉のひとつが「リバタリアニズム」であって、『自由はどこまで可能か リバタリアニズム入門』森村進著を読む。 読んだけど、よくわからない。こんが…

「文明繁栄による環境負荷が崩壊の契機を生み出す」

文明崩壊 上巻 作者:ジャレド ダイアモンド 草思社 Amazon 文明崩壊 下巻 作者:ジャレド ダイアモンド 草思社 Amazon ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの(上)』を読む。 同じ著者の話題作『銃・病原菌・鉄』が文明の興隆を…

「人格障害」とラベリングしてしまえば、それでわかった気になっていないだろうか。作者はそれを「片づけ」と表現している

人格障害をめぐる冒険 作者:大泉 実成 草思社 Amazon 『人格障害をめぐる冒険』大泉実成を読む。この手に興味のある人には、おすすめする。 昨今流布している「人格障害」、その背景には、「精神分裂病」(原文まま→統一性失調症)=無罪、「人格障害」=(有責…

彼女たちはドローンを歌声で操る

芥子はミツバチを抱き 作者:藍内 友紀 KADOKAWA Amazon 『芥子はミツバチを抱き』 藍内友紀著を読む。 日本と南アフリカのダブルの少年イェリコ。日本の小学校でいじめにあって不登校児となる。このところ、VRドローンレースに夢中になっている。イスタンブ…

ある日、利根川に若い女性の死体が…

不在 作者:宮沢 章夫 文藝春秋 Amazon 『不在』宮沢章夫著を読む。この人の小説を読むのは、はじめて。舞台は北関東の地方都市。ある日、利根川に若い女性の死体が浮かぶ。 ブコウスキー原作でリュック・ベンソンがプロデュースした『つめたく冷えた月』をイ…

重箱の隅をつつくように欧米の隅をつつく

欧米の隅々: 市河晴子紀行文集 作者:市河 晴子 素粒社 Amazon 『欧米の隅々-市河晴子紀行文集-』市河晴子著 高遠弘美編を読む。 「稀代の文章家」といわれた作者。何行か読むだけで、その魅力的な文章に心を鷲づかみにされた。文章家つっても美辞麗句、乙…

人形愛(ピグマリオンコンプレックス)の「わたし」は、サイボーグの夢を見るか

メタリック 作者:別唐 晶司 新潮社 Amazon 『メタリック』別唐晶司著を読む。きっかけは、SFマニアと思われる人のtweet。ありがとうございます。 「わたし」は小男、痩身。何年かおきに大病に冒される、病弱タイプ。運動神経もまるでなし。当然、自身の肉体…