ガンボ(アメリカ南部のソウルフード)のような知的ごった煮の黒人音楽史

 

 

『黒人音楽史-奇想の宇宙-』後藤護著を読む。

 

黒人音楽好きと言っても、ブルースやジャズ、ファンクとヒップホップと好みが分かれる。で、そのカテゴリーごとに専門の評論家やライターが、そのミューシャンの特徴や出自、楽曲の傾向などを解説。てのが通常の音楽史の本。

 

この本は黒人音楽を串刺しに魔法のスパイスをふりかけた本。あとがきにこう書いてある。


「いわば思想書の一種として書かれたものであり、近代合理主義の分析(アナライズ)する知よりも、魔術的な綜合(ジンテーゼ)する知を黒人音楽に見出したとも言える(アナロジーが実は裏テーマ)」

 

たとえばブルース。
根底にあるのが黒人差別。奴隷となって長時間苛酷な労働を強いられる。その日々の辛苦を歌にしたのが、ブルース。そうなんだけど、作者はぼくがまったく知らなかったブルースの世界を提示してくれる。単にぼくのブルースに関する知識が薄っぺらいというのもあるけれど。

 

初期のブルースには鯰、「綿花につく害虫ワタミゾウムシ」、蜘蛛など身近な生物がテーマにされていたとか。


作者の考察。「鯰には「自由」が、ワタミゾウムシのは「忍耐」が、蜘蛛には「淫欲」がそれぞれ象徴されていた」

 

ジャズではアルバート・アイラ―とサン・ラーが取りあげられている。池袋にあったフリージャズ喫茶で聴いた。特にアルバート・アイラ―はLPを何枚か持っていて部屋で一時期よく聴いた。ジョン・コルトレーンと真逆の立ち位置のアイラ―。漫画家で例えるならば、杉浦茂と述べた中沢新一の見立ては納得した。

 

サン・ラーはオーネット・コールマンのファンキー版と思っていたが、そのサウンドの奥深さを教えられた。スぺーシーな感覚がアース・ウィンド・アンド・ファイアーダフト・パンクにも通じる。もう一度聴いてみよう。

 

Pファンクの首領、ジョージ・クリントンの功績と影響。最近、サブスクで改めて聴くようになったヒップホップ。気に入ったところを引用。

 

「いわば過去音源(死体)を切り刻み、縫合して新たな音源(生命)を作り出すという意味で、フランケンシュタイン博士と同工異曲の手捌きでヒップホップはトラック・メイキングをしているのだ」

 

澁澤龍彦種村季弘高山宏ら、いわばカルチャーキュレーター、知の蒐集家、水先案内人というのは荒俣宏あたりで絶滅したのかなと思いきや、30代の著者は、大学で高山宏の薫陶を受けたという。文体や博覧強記(ときには狂気も)ぶりは、隔世遺伝なのか、突然変異なのか。


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