進化を遂げた新人類の憎しみと哀しみ

 

 


ジーンリッチの復讐』山川健一著を読む。

 

舞台は、2020年の日本。経済はさらに悪化して、政治も破綻状態。回収されないゴミが悪臭を放つスラム街と化した渋谷から物語は、はじまる。主人公は18歳。元ハッカー、現在はネットワークゲーム会社の代表取締役。元医師の営業担当や厨房のプログラマーなどとチームを組んでビジネスをしている。

 

彼は、ジーンリッチの一人である。ジーンリッチとは、遺伝子(ジーン)操作で生誕した新人類たちのこと。ちなみに、旧人類はナチュラルと称されている。「病気のウィルス耐性のある遺伝子を組み込まれたばかりでなく」頭脳明晰、眉目秀麗など、まさに理想的な種として生まれた優秀な人間である。

 

日増しに大きくなってくる、彼にしきりにささやきかけてくる謎の声。主人公は、そのプロジェクトの一員であった女性研究員と恋愛関係を結ぶ。それまでメールは交わしていたが、実際、会ってみて、はじめてなのに、なぜか、深く惹かれるものを感じてしまう。

 

原因不明の事故が次々と起こり、その研究に携わった人々が不慮の死を遂げる。やがて謎の声の主が明らかになる。そして彼の真の父親と母親も。

 

ビデオドラッグ、遺伝子工学、進化論、人工生命などの蘊蓄(うんちく)も存分に盛り込まれているが、一方でラブあり、アクションありで、そのあたりのストーリーテリングの巧みさ、バランスの良さは、さすがである。

 

村上龍の『ヒュウガウィルス』を期待して読んだが、ストーリーはそれなりに良かったのだが、肝心のウィルスに関する知識がかなり読み込み不足で、イマイチ、世界に入り込めなかった。本作は、これでもかとばかりに資料をインプットしてあるが、うまく加工・処理してある。

 

かのSFの不朽の名作『ブレード・ランナー』に登場してくるレプリカントと同様に、ジーンリッチは、自分の出生を恨み、憎む。クローン人間に生まれついた哀しみ、やるせなさ。文字通り、それはタイトルのまんま『ジーンリッチの復讐』なのであった。

 

クローン人間を創ることは、倫理的、宗教的側面から法律により欧米諸国・日本では、禁じられている。しかし、将来的にはどうなるのだろう。単純計算で主人公は、2002年に誕生していることになる。

 

ジャンルとしては、近未来SFものなのかな。映画『ガタカ』をふと見たくなった。


人気blogランキング