2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

好き勝手に書かれた小説は、好き勝手に読めばいい―あえて煙に巻かれよ

『テーゲベックのきれいな香り 』山崎修平著を読む。詩人が書いた小説デビュー作。 詩人が書く小説と小説家が書く小説。その違いはなんだ。あくまでも個人的見解だが、一語や一文に対する思いの質や量が違う気がする。この作品は小説とも言えるが、とてつも…

ずらす、そらす、はぐらかす

『川端康成異相短篇集』川端康成著 高原英理編を読む。 川端の短篇を怪談や奇想、乱歩いうところの奇妙な話などで括られるものがある。編者は、あえてそれらを「異相」と呼ぶ。『心中』の解説で編者は異相をこう解釈している。 「そこに読み取られるのは別世…

鶴見の言葉を「哲学」として読み直す

『鶴見俊輔の言葉と倫理 想像力、大衆文化、プラグマティズム 』谷川嘉浩著を読む。 なぜ鶴見の著作は読みづらいのか。わかりづらいのか。作者はこの疑問を解き明かすために、この本を書いた。 ぼくは鶴見俊輔の著作や鶴見について書かれた本やインタビュー…

しみじみ『めし』を見る

ヒートテックを脱ぎ捨てて、エアリズムをひっぱり出す。天候の変動の激しさに体がついていけない。 『めし』成瀬巳喜男監督を見る。林芙美子未完の新聞連載小説を映画化したもの。二十代の頃、見た記憶はあるのだが、印象が薄い。ほとんど初見状態でなんとな…

バイバイ日本。ようこそアジア

『クミコハウス』素樹文生著を読んでバリ島へ行ったことをふと思い出した。 ぼくたちは、レギャンの雑踏やクタビーチの物売りとの値引き交渉にも、ちょっとヤになってきて、オートバイでバリ島冒険旅行に出かけた。出発して6時間あまり。途中、道端で売られ…

探し物は、何ですか―「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目には見えないんだよ」

『オリジナル版 星の王子様』サン=テグジュペリ著 内藤濯訳を読む。 てっきり読んだことがあると思って、その実、おしまいまでちゃんと読んだことがない本ってありますよね。ぼくにとっては本書がそうでした。中学校の国語の教科書に、本書の一部分が引用さ…

おもしろうて やがてかなしき

『烙印』大下宇陀児著を読む。 本作に収められたエッセイ『探偵小説の中の人間』で作者は自戒の念を込めて、探偵小説作家はトリックに力点を置いて肝心の人間を描くことを疎かにしていると述べている。手詰まりと思われたミステリーに風穴を開けたのが、「松…

薔薇がなくちゃ生きていけない

『オーウェルの薔薇』レベッカ・ソルニット著 川端康雄訳 ハーン小路恭子訳を読む。 著者がイギリスの出版社とのトラブルがあって直接、乗り込むことに。ならば長年の懸案だったジョージ・オーウェルが丹精込めて手入れしていた庭を、見たい。ひょっとしたら…

追憶の1969年―早川義夫と男の情念

『自己表出史「早川義夫」編』監督 原 将孝(将人)を見る。 女の情念を歌う人なんていうと、中島みゆきあたりがすぐ頭に浮かぶが、男の情念というと、誰なんだろ。最近じゃ『東京』を歌っている桑田佳祐あたりだろうか。おっと、早川義夫がいた。切々と歌う…

日本人には「公」(パブリック)の意識が欠落している

東日本大震災の起きた日なんで『原発事故はなぜくりかえすのか』高木仁三郎著のレビューの再録。 かつて勤めていた広告代理店の所属していた制作ルームで隣りのチームが総理府政府広報を担当していた。その当時は、毎年課題が何点か出題され、文章はもちろん…

イエスかノーか。男性にとっては「男であること」への、いわば踏み絵的本

『どうして男はそうなんだろうか会議-いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと-』澁谷知美編 清田隆之編を読む。 耳が痛いところ、仰せの通りと思いながら100パー納得できないところなどいろいろ。何か所か引用して短いコメントを。 「澁谷 よ…

破滅への囁き

『ブラッドシンプル/ザ・スリラー』監督 ジョエル&イーサン・コーエンを見る。 撃たれて、しばらくして身体からたらたらと滴れていく血。クライマックスシーンの銃弾によりぶち抜かれた壁の穴から漏れ出る光の筋。最も怖いのは、コケおどしの音楽や特殊メ…

ふらふらふわふわフラヌール―素敵な詩歌の華麗ド・スコープ

『詩歌探偵フラヌール』高原英理著を読む。 猫探偵は迷い猫を探す。私立探偵はもし依頼人から失踪者調査を頼まれたら探す。詩歌探偵、メリとジュン。毎回不思議な場所や不思議な人と出会って古今東西のイカした詩歌を見つけ出す。全8篇の短篇集。主人公がア…

ケア、文学、女性、男性

『ケアする惑星』小川公代著を読む。 ケアという切り口で数々の文学を捌きながら、長年そのケアを担ってきた女性、違うな、男性によって担わざるを得なかったこと、フェミニズムとケアを見つめ、さらにいまそしてこれからのケアについて俯瞰させてくれる。以…

サンジェルマン・デ・プレのU2(憂鬱)

『そして僕は恋をする』監督アルノー・デプレシャンを見る。 約3時間。フランス映画。字幕スーパーを追うだけで疲れる。→寝てしまうZZZ。ぼくの場合、かつてはヌーヴェルバーグ小僧だったんだけど、いつから駄目になったんだろう。あ、エリック・ロメール…