しみじみ『めし』を見る

めし<東宝DVD名作セレクション>

ヒートテックを脱ぎ捨てて、エアリズムをひっぱり出す。天候の変動の激しさに体がついていけない。

 

『めし』成瀬巳喜男監督を見る。林芙美子未完の新聞連載小説を映画化したもの。二十代の頃、見た記憶はあるのだが、印象が薄い。ほとんど初見状態でなんとなく見ていたら、しみた。

 

東京から大阪に転勤となった、倦怠期を迎えた夫婦。そこに島崎雪子扮する魅力的な亭主の姪が突然あらわれ騒ぎを起こす。まさに小悪魔的イメージ。小悪魔なんて死語か。
やっぱりヴァンプというべき。おっと、これも死語か。

 

話はそれるが、「きみは小悪魔だ」というセリフで告白したヤツが大学時代にいた。結果はおして知るべし。

 

株屋に勤めながらも、石頭で要領の悪そうなハンサム亭主役が上原謙。以前見たときには、風采のあがらなさや滑舌の悪さ、ハンサムなだけの大根役者と腹が立ったけど、
どうして、どうして。いまのやさしい夫のさきがけに思える。ぼくと重なる部分が多くて、しみた。

 

美人の妻役が原節子。小津映画での穏やかな役柄とは一転して、かなりものいうタイプ。

 

日常的な夫婦の諍い、危機感、女と男の立場の違いなどを淡々と映し出していく。

 

例によってセットでどこまで街並みや長屋をつくりこんであるかは知らないが、大阪城の周囲に高いビルディングがまったくない風景は、美しい。

 

夫婦の住んでいる同じ長屋の若者役を演じるのが大泉滉。頼りないハンサムなアプレ青年というのか、飄々とした演技で好演している。

 

タイトルの「めし」は、亭主の口癖。「フロ、めし、寝る」とおんなじ。でも、それじゃタイトルには不向き。

 

女性映画の名匠と成瀬を評しているが、女性映画=男性映画だと思う。ポジとネガ、表裏一体。女性映画の名匠は男性映画の名匠であり、すなわち映画の名匠。

 

それにしても、しみじみ『めし』を見れるなんて、心身ともにオジサンだあ。

 

余談

脚本家の橋田寿賀子は、TVドラマの長台詞が有名だが、どうやらそれは映画の脚本を書いていた頃、当時の映画監督に台詞をことごとくカットされた私憤からくるものらしい。成瀬も絵でわかると脚本の台詞部分は惜しげもなくカットしていたそうだ。


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