2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

幸なのか、不幸なのか、ともかく、ブローティガンの最後の作品

不運な女 作者:リチャード・ブローティガン 新潮社 Amazon 『不運な女』リチャード・ブローティガン著 藤本和子訳を読む。 「遺品の中から彼の娘が発見した」ノートに綴られたもの。ミュージシャンなら未発表音源デモテープのようなものか。相変わらず好きな…

デジタル音楽全盛、なぜか、でもレコードが人気

音楽未来形―デジタル時代の音楽文化のゆくえ 作者:聡, 増田,文和, 谷口 洋泉社 Amazon 『音楽未来形 デジタル時代の音楽文化のゆくえ』増田聡・谷口文和を読む。 とりあえず気に入ったところ。 「哲学者のヴィレム・フルッサーは「写真の哲学のために」の中…

推し、百合、ケア―「「推し」がいれば何でもできる」

ニジンスキーは銀橋で踊らない 作者:かげはら 史帆 河出書房新社 Amazon 『ニジンスキーは銀橋で踊らない』かげはら史帆著を読む。 天才バレエ・ダンサー、ニジンスキーの妻・ロモラの、まさに波乱万丈(陳腐な言い回しだけど)の半生記。 これまで音楽家のノ…

風刺やブラックユーモアがピリリと利いた老人のための童話集

老人のための残酷童話 (講談社文庫) 作者:倉橋由美子 講談社 Amazon 『老人のための残酷童話』 倉橋由美子著を読む。 いやあ実に久しぶりで。で、この本、風刺やブラックユーモアが利いていて、あっという間に読んでしまった。これから著者の作品をゆるゆる…

あとを引く怖さ―ポップなガーリッシュホラー

寝煙草の危険 作者:マリアーナ・エンリケス 国書刊行会 Amazon 『寝煙草の危険』マリアーナ・エンリケス著 宮崎真紀訳を読む。 「アルゼンチンのホラープリンセス」と呼ばれているとか。核にあるのは女の子の普遍的な脆さと危うさ。劣等感と優越感。それにホ…

泣ける、微笑む、しみじみさせられる、プラトーノフの短篇

ポトゥダニ川 (群像社ライブラリー) 作者:アンドレイ・プラトーノフ 群像社 Amazon 『ポトゥダニ川-プラトーノフ短編集-』アンドレイ・プラトーノフ著 正村和子訳 三浦みどり訳を読む。 作者って全体小説を書くような長篇型の作家だと思っていたが、オーソ…

生きる権利と死ぬ権利―自死の幇助は罪か否か

神 作者:フェルディナント・フォン・シーラッハ 東京創元社 Amazon 『神』フェルディナント・フォン・シーラッハ著 酒寄進一訳を読む。 元建築家の78歳のゲルトナー。健康状態は良好だが、妻に先立たれて生きる気力を失くし、医師に自死の幇助を求める。死ぬ…

教授、現代アート作家になる―「天然知能」から「天然表現」へ

創造性はどこからやってくるか ――天然表現の世界 (ちくま新書) 作者:郡司ペギオ幸夫 筑摩書房 Amazon 『創造性はどこからやってくるか―天然表現の世界』郡司ペギオ幸夫著を読む。 生命基礎論の研究者であり大学教授でもある著者が、アート作品を創るまでの過…

儚くも美しい鏡の王国の衰亡記―仮面の裏側にあるものは

仮面物語: 或は鏡の王国の記 作者:山尾悠子 国書刊行会 Amazon 『仮面物語-或は鏡の王国の記-』山尾悠子著を読む。 放浪の彫刻師・善助は、立憲君主都市・鏡市を訪れる。その名の通り、鏡の王国。彼は、影盗み。人の顔を一瞥しただけで「たましいの顔」が…

翻訳職人の技と心―平井呈一

迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成 (創元推理文庫) 作者:A・ブラックウッド,他 東京創元社 Amazon 『迷いの谷-平井呈一怪談翻訳集成-』A.ブラックウッドほか著 平井呈一訳を読む。 M.R.ジェイムズは『消えた心臓』、『マグナス伯爵』など。A.ブラックウッ…

『資本論』の逆襲

現代思想2004年4月臨時増刊号 総特集=マルクス 青土社 Amazon 柄にもなくマルクス、マルクス兄弟じゃないよ、ヘイ、ブラザー。 「現代思想4月臨時増刊マルクス」より、最もひかれた論文から一部を引用してみる。 「景気循環のたびに資本の緩衝装置として遣い…

濃厚で芳醇な「瞬篇小説」

夏至遺文 トレドの葵 (河出文庫) 作者:塚本 邦雄 河出書房新社 Amazon 『夏至遺文 トレドの葵』塚本邦雄著を読む。 短篇小説というと、川端康成の掌の小説、星新一のショートショートなどがある。最近では北野勇作の100字小説なんていうのもある。作者は、「…

人がまちがえるのは、脳がまちがえるからだ

まちがえる脳 (岩波新書) 作者:櫻井 芳雄 岩波書店 Amazon 『まちがえる脳』櫻井芳雄著を読む。 ヒューマンエラーを完璧に防ぐことはできない。だって、大もとの脳がまちがえるから。しかし、このまちがいが、災い転じて福となす。その最大の福が独創的なア…

愛は幻―「本能が壊れた動物である人間は幻想する動物である」

唯幻論物語 (文春新書) 作者:岸田 秀 文藝春秋 Amazon 超々久しぶりに岸田秀の本を読み出す。 『唯幻論物語』。自己分析、自己批評。私小説的味わい。この本は小谷野敦へのアンチテーゼ本として書かれたそうだ。出だしからして、岸田節、バリバリ全開。精神…

英雄と悪漢

ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫) 作者:猪瀬 直樹 文藝春秋 Amazon 『ピカレスク 太宰治伝』猪瀬直樹著を読む。 太宰というと、相原コージの「コージ苑」に出て来た、憂い顔の和服姿の腺病質の男を思い浮かべてしまう。そのコマには、お約束のように筆文字で…