儚くも美しい鏡の王国の衰亡記―仮面の裏側にあるものは

 

 

『仮面物語-或は鏡の王国の記-』山尾悠子著を読む。


放浪の彫刻師・善助は、立憲君主都市・鏡市を訪れる。その名の通り、鏡の王国。彼は、影盗み。人の顔を一瞥しただけで「たましいの顔」が見え、粘土で作りあげることができる。


「たましいの顔」を見た人は気が狂うといわれており、影盗みは、嫌われ、見つかり次第処刑される。影盗みの目印は右手の痣だそうで、善助はふだんはバレないように隠している。彼らは鏡で自分の顔を見ることができない。なぜならうっかり見てしまうと死に至るおそれがあるからだ。

 

この都市では、人々は影盗みに顔を見られないようさまざまな華麗な仮面をつけている。毎日がヴェネチアの仮面祭のよう。しかし、彼の身元が明らかとなり、追われる身となる。


鏡市の帝王加賀美が暮らしている塔、姿を見せなくなった王の娘・聖夜が棲んでいる迷路のような二重館。彼女を護衛する国会議員の間久部、自動人形のアマデウス宮崎駿監督のアニメ映画『君たちはどう生きるか』で、主人公の少年が亡き母に会いに異界もしくは黄泉の国を旅するが、どうもその映像とイメージが重なってしまう。


自動人形、ドッペルゲンゲル、魔術師のゲットオ、ゴーレム、さらにさらに、虎をペットにしている聖夜のかっこよさ、つーか満点のコスプレ感。


鏡の王国の衰亡記。ぶれない、つーか、その完成度の高さ。40年後に読んでも、しっくりくる。40年前にもし読んでいたら、その世界を十分に楽しめなかったかもしれない。

 

心理学の講義でパーソナリティ(人格)の語源は、ラテン語のペルソナ(仮面)だと教わったことを思いだした。人は相手によって異なるさまざまな仮面を使い分け、演じていると。

 

ユングは、確か他人に見せる顔(表向き、外面 そとづら)であるペルソナを光とするならば、真逆の顔(奥向き、内面 うちづら)は影であるシャドウになると。だとしたら、影盗み、ヤバ!!


倉橋由美子ボルヘスカフカル=グウィン萩尾望都とか、思いつくままに挙げたが、そんな影響が感じられると思うのは、ぼくだけではないだろう。

 

20代の作品、唯一といわれる長篇小説。他の作品にはあまり感じられないアクティブ感もあって意外。幻想小説よりもSFゴシックファンタジーかなとぼくには思えた。よくできたアニメーションや謎解きゲームのようでもある。

 

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