2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

日常的なできごとをすくい上げている短篇集。滲みるなあ

掘るひと 作者:岩阪 恵子 講談社 Amazon 『掘る人』岩阪恵子著を移動中に読む。 人生の後半戦を迎え、それなりに、くたびれてきた女性と男性の、日常的なできごとをすくい上げている短編集。 子どものいない中年夫婦の静かな夫婦生活、姑と同居して夫が単身…

早すぎた幻想小説家―初期の山尾悠子

山尾悠子作品集成 作者:山尾 悠子 国書刊行会 Amazon 昔書いた『山尾悠子作品集成』山尾悠子著のレビュー。 緻密な文体や構成は、完成度が素晴らしく高く、全然古びていない。版元得意の鈍器本ゆえ、えらい重たくて、読むのにナンギしたけど。 山尾悠子のこ…

ラジオと戦争と公共放送

ラジオと戦争: 放送人たちの「報国」 作者:大森 淳郎,NHK放送文化研究所 NHK出版 Amazon 『ラジオと戦争-放送人たちの「報国」』大森 淳郎 NHK放送文化研究所著を読む。 第二次世界大戦の戦前・戦中・戦後、日本放送協会(以下NHK)のラジオ放送に関わった人…

カセットテ-プと潮騒

古家を建て替えた。八か月仮住まいに住んで再び引越した。僕と妻と子どもと猫3人との同居生活。やっとの思いで最後の段ボールを開封すると、1本のカセットテープが出て来た。インデックスに「19××年8月×日 新潟・越前浜海水浴場 取材」と書いてある。 なんで…

英国ゴシック文学の系譜学―怪奇・幻想の奥底にあるもの

ゴシックと身体──想像力と解放の英文学 作者:小川 公代 松柏社 Amazon 『ゴシックと身体 想像力と解放の英文学』小川公代著を読む。 みんな大好きなゴシック小説というと、怪奇とか幻想とかクラシックとかオカルトとか、そんなものをイメージする。ぼくもメ…

ノー・マンズ・ランド 閾(しきい) 敷居

権力の空間/空間の権力 個人と国家の〈あいだ〉を設計せよ (講談社選書メチエ) 作者:山本 理顕 講談社 Amazon 『権力の空間/空間の権力 -個人と国家の<あいだ>を設計せよ-』山本 理顕著を読む。 『人間の条件』でハンナ・アレントは古代ギリシアの都市(ポ…

「私たちは、与えることによって利他を生み出すのではなく、受け取ることで利他を生み出します」

思いがけず利他 作者:中島岳志 ミシマ社 Amazon 『思いがけず利他』中島岳志著を読む。 「情けは人のためならず」という諺(?)がある。情けを他人にかけることはめぐりめぐって自分に帰ってくる。本来は、こんな意味だったが、最近、情けを他人にかけることは…

ダイイング・メッセージは、「木箱を幽霊ホテルへ」

幽霊ホテルからの手紙 (文春e-book) 作者:蔡駿 文藝春秋 Amazon 『幽霊ホテルからの手紙』蔡駿著 舩山むつみ訳を読む。 作家の周旋と警察官の葉䔥は親友同士。かつては恋の宿敵だったが。周旋が葉䔥の元へ。手には木箱が。偶然バスで隣り合わせた田園という…

「現代は、死という契機を通過しなければ生に辿り着けない時代なのかもしれない」

病いの哲学 (ちくま新書) 作者:小泉義之 筑摩書房 Amazon すっかり読んだ気になっていた『病の哲学』小泉義之著。最後のあたりを読み残していたので、読んでしまう。 わかったところ、わからないところ、同調できるところ、できないところ、むくむくと小波が…

統計学に強いスピってる黒衣の天使

超人ナイチンゲール (シリーズ ケアをひらく) 作者:栗原 康 医学書院 Amazon 『超人ナイチンゲール』栗原康著を読む。 フローレンス・ナイチンゲールというと、クリミア戦争の白衣の天使とか、看護システムを構築した人ぐらいしか知らなかった。あ、あとは統…