2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

非対称的世界がもたらしたもの

緑の資本論 (ちくま学芸文庫) 作者:中沢 新一 筑摩書房 Amazon 『緑の資本論』中沢新一著を読む。 本書を執筆するモチベーションとなったのは、9.11.以降の「国家の蛮行」と「イスラームに対する偏見や無知への憤り」である。さらに付け加えるならばア…

短篇と断片と断面

もう死んでいる十二人の女たちと (エクス・リブリス) 作者:パク・ソルメ 白水社 Amazon 『もう死んでいる十二人の女たちと』パク・ソルメ著 斎藤真理子訳を読む。 なかなか先へ読み進むことができなかった。あ、そうか、小説よりもむしろ詩、散文詩を読むと…

『明け方の猫』を夕方に読む

明け方の猫 (中公文庫) 作者:保坂 和志 中央公論新社 Amazon 連絡待ちの間に、こっそり、中学生が友だちから借りたエロ本を読むように『明け方の猫』保坂和志著を読む。なんで。わからん。 『明け方の猫』は、猫に変身した男の話。いかようにも書けるはずが…

マリッジブルーの男または宙ぶらりんの男

礫 作者:藤沢 周 講談社 Amazon 『礫』藤沢周著を読む。 主人公はペット業界紙の記者。グラマラスで美人の婚約者がいて、2人の新居となるマンションはすでに契約済み。結婚式の会場や日取りなどを決める最終段階にまで進んでいる。 しかし、彼は100%喜…

ユートピアは砂糖菓子のように脆い

チェヴェングール 作者:アンドレイ・プラトーノフ 作品社 Amazon 『チェヴェングール』アンドレイ・プラトーノフ著 工藤順訳 石井優貴訳をようやっと読む。 ロシア文学というと、長い、登場人物が多い。「父称、あだ名」と本名があってややこしい。誰が誰だ…

ヒトは、白紙じゃ生まれてこない

ヒトの意識が生まれるとき (講談社選書メチエ) 作者:大坪 治彦 講談社 Amazon 『ヒトの意識が生まれるとき』大坪治彦著を読む。 よく言われることだが、人間以外の哺乳動物は、生まれてすぐ独り立ちができる。それに比べて人間の子どもは「まったく頼りなく…

難病の子どもが治った?でも、おかしい

聖者の落角 佐々木事務所シリーズ (角川ホラー文庫) 作者:芦花公園 KADOKAWA Amazon 『聖者の落角』芦花公園著を読む。 心霊事に関することなら何でも承る佐々木事務所シリーズの三作目。所長のるみは、これまで颯爽と事件の解決に当たっていたが、本作では…

原因不明の伝染病に立ち向かう疫学者グループチーム

エピデミック (集英社文庫) 作者:川端 裕人 集英社 Amazon 『エピデミック』川端裕人著を読む。 パンデミックは、鳥インフルエンザなどの感染症などが世界的に流行することを言うそうだが、エピデミックは、特定地域で流行る伝染病を表わすそうだ。 この手の…

青山(せいざん)はいつも歩いている―「野性の復権」とは

野性の実践 作者:ゲーリー スナイダー 山と溪谷社 Amazon 『野性の実践』 ゲーリー・スナイダー著 重松宗育・原 成吉訳を読む。 冒頭からちょいと長めの引用を。 「『自然』は科学のいわゆる対象である。~中略~『野性』は、こうした意味での主体にも客体に…

たべタイワン のりタイワン あいタイワン

台湾漫遊鉄道のふたり 作者:楊双子 中央公論新社 Amazon 『台湾漫遊鉄道のふたり』楊双子著 三浦裕子訳を読む。 戦前、日本の統治下にあった台湾。ここで自作がベストセラーになった作家・青山千鶴子は、昭和13年、講演旅行で台湾各地を巡ることになった。…

山尾悠子ヴァラエティブック―わたしをつくったもの

迷宮遊覧飛行 作者:山尾悠子 国書刊行会 Amazon 『迷宮遊覧飛行』山尾悠子著を読む。 作者を知ったのは、分厚い『山尾悠子作品集成』だった。この本は自身による山尾悠子ヴァラエティブックといってもよいだろう。 20代のデビュー当時から20数年に及ぶ休筆時…

ことばの習得を可能にしたのは、「オノマトペ」と「アブダクション(仮説形成)推論」

言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) 作者:今井むつみ,秋田喜美 中央公論新社 Amazon 『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか-』今井むつみ著 秋田喜美著を読む。 「子どもはどのようなことばを最初に覚えるのだろう?どのように言…

「ぽきん金太郎、ぽきん金太郎」

世界を肯定する哲学 (ちくま新書) 作者:保坂 和志 筑摩書房 Amazon 待ち時間に『世界を肯定する哲学』保坂和志を読む。 金太郎飴のような人だね。つげ義春ではないが、「ぽきん金太郎、ぽきん金太郎」(by『ねじ式』)。どこを割っても、何を読んでも、保坂和…

「群れ」るが決して「一」ではない

群れは意識をもつ 個の自由と集団の秩序 (PHPサイエンス・ワールド新書) 作者:郡司ぺギオー幸夫 PHP研究所 Amazon 『群れは意識をもつ-個の自由と集団の秩序-』郡司ペギオ‐幸夫著を読む。 ムクドリの群れを見たことがあるだろうか。イワシの群れを水族館で…

事件は裏から斜めから見ると、見えなかったものが見えてくる

からくり民主主義 (新潮文庫) 作者:秀実, 高橋 新潮社 Amazon 『からくり民主主義』高橋秀実著を読む。 よくかけだしの新聞記者が上司からいわれる常套句のひとつで「記事は足で書け」というのがある。 吉本新喜劇なら、おもむろに、靴下を脱いで、足の指の…

喪失から再甦へのダンス・ダンス・ダンス

プロトコル・オブ・ヒューマニティ 作者:長谷 敏司 早川書房 Amazon 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司著を読む。 あれはパラリンピックの開会式か、閉会式か、忘れてしまったが、義足のダンサーが登場して素晴らしいパフォーマンスを見せてくれ…

広告も、都市も、生き物である

増補 広告都市・東京: その誕生と死 (ちくま学芸文庫) 作者:北田 暁大 筑摩書房 Amazon 『広告都市・東京 その誕生と死 増補』北田暁大著を読む。 作者はジム・キャリー主演の映画『トゥルーマン・ショー』と渋谷を題材に、現代社会における広告及び都市の機…