事件は裏から斜めから見ると、見えなかったものが見えてくる

 

 


『からくり民主主義』高橋秀実著を読む。

 

よくかけだしの新聞記者が上司からいわれる常套句のひとつで「記事は足で書け」というのがある。

 

吉本新喜劇なら、おもむろに、靴下を脱いで、足の指の間にペンをはさんで「足で書くってこうでっか~、えらいナンギやわあ」などどボケをかますのだが。

 

作者は事件となった、なっている場所へ赴いて、現地の人に取材するのだが、これが、ほんとに、おもろい。

 

取り上げられているテーマを引用すると、「小さな親切運動」「統一教会とマインドコントロール」「世界遺産観光」「諫早湾干拓問題」「上九一色村オウム反対運動」「沖縄米軍基地問題」「若狭湾原発銀座」「横山ノック知事セクハラ事件」「富士山青木ヶ原樹海探訪」「車椅子バスケットボール

 

森達也の映画『A』とかマイケル・ムーアドキュメンタリー映画や著作と共通しているものを感じた。

 

TVとか新聞・雑誌で騒がれた事件の、結果的に知られていない意外な事実がぽんぽん出てくる。これは取材力なのか、作者がのべているように、騒ぎが落ち着いたから、住民たちが冷静になって話せるのか。作者の聴きだす力なのか。

 

まあ、マスコミは、視聴率や部数拡大のために、対立の図式やあおり、アジテーションなど、手練手管で事実を演出する。ときには過剰なまでに。そうしないと、視聴者や読者の知る権利に応えられないと。

 

いやいやまいってしまう。まいる度合いは、マスコミよりも住民のほうに対して、だ。したたかなんだな、これが、実に。転んでもタダでは起きない精神が、あまりにも、さもしくて。黒澤の『七人の侍』か白土三平の漫画か、忘れてしまったが、「百姓がいちばん汚い」こんなセリフがふと、浮かんだ。

 

「からくり民主」は換言すれば、「民度の低い日本人」の民主主義のことかも。

 

文体のゆるやかさ、体温の低さが、いまどきのノンフィクションライターだなと思わせる。ある意味、押しつけがましい感動とか、説教臭さとか、そういうのが一切排除されている。愚直なまでの正直さとでもいえばいいのだろうか。

 

なんか物足りないなーと感じたら、たぶん、それはくだんのジャーナリストの紋切り型の文章に毒されている証拠かもしれない。リトマス試験紙代わりに、一読を。-ぼくは、少々毒されているようだ。

 

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