喪失から再甦へのダンス・ダンス・ダンス

 

 


プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司著を読む。


あれはパラリンピックの開会式か、閉会式か、忘れてしまったが、義足のダンサーが登場して素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。

 

コンテンポラリーダンサーの護堂恒明はオートバイ事故で右足を失う。幻肢に襲われるなど肉体的にも辛かったが、ダンサーとして踊れなくなった喪失感の方が強かった。

 

しかし最先端のAI制御による義足を装着することで再起を決意する。恒明に最先端の義足を付けてダンスしてもらうことで義足の進化を狙う。さらにAI義足の開発企業でもあるダンスカンパニーからロボットとのダンス競演を依頼される。

 

父親・護堂森は日本のダンサーの草分け的存在。老いてもなお現役バリバリのダンサー。『巨人の星』の星飛雄馬の父親、一徹みたいな存在。若い人は知らないか。

 

彼は恒明や開発者に、AI義足装着によるダンスとロボットとのパフォーマンスに手厳しい意見を述べる。

 

居酒屋のアルバイトとダンサーとして復帰するためのハードなトレーニング。納得のいくダンスができなくもがく。

 

そんなある日、両親が自動車事故を起こす。母親は亡くなり、運転していた父親も負傷する。父親は再起を目指すが、痴呆症の症状が出始める。


このまま進行すると施設に入所させなければ。費用の件で父親とは疎遠な兄に相談するが、つれない返事。

 

父親の介護。身勝手な振る舞い。綱渡りのような日々。救いは、恋人の永遠子だった。

 

ともかく前へ進むしかない状況で次第に彼はこれからのダンスの手がかりを見つけていく。

 

プロトコルとは、約束事。彼は自分とロボットたちとのダンスに、いかにしてプロトコルを見出せるのか。


恒明が父親を介護するシーンが、やけにリアリティがあると思ったら、あとがきで作者自身も一時期、親を介護していたそうだ。


SFでAI義足なんていうから、義体=『攻殻機動隊』みたいなものを想像していたら、見事に裏切られた。最後のダンスシーンの描写は圧巻。

 

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)などの考え方も出て来るが、さほど気にならない。SFが苦手な人にこそ読んでもらいたい。

 

人気blogランキング