『輝く断片』をピグマリオニズム(人形愛)といってしまえば、ハイ、それまでよ、か

 

 

『輝く断片』シオドア・スタージョン著  大森 望他訳、読了。


8篇の短編が収録されているが、やはり、トリをつとめる表題作が図抜けていい。
大御所伊藤典夫の翻訳が、また、いい。
なら他の作品がつんまないか。そんなことはない。

ライトノベルのサイコホラー物で物足りない人には、一読をおすすめする。
読んでいてひりひりしてしまった。

 

リュック・ベッソンがプロデュースした映画『つめたく冷えた月』をご存知だろうか。
原作がブコウスキーの。といえば、テイストはわかるかもしれないが。
ネタバレはご法度なんで、あの映画が好きな人なら、『輝く断片』はマジヤバイと思う。ぼくはその映像が好きだったんだけど。白い大理石の石像のような女性の肢体(屍体)。夏の真夜中の海岸。ジミ・ヘンドリックスの音楽。

 

『輝く断片』をピグマリオニズム(人形愛)といってしまえば、ハイ、それまでよ、か。

 

愛しているのは、きみじゃなくて、きみの断片。
欲しいのは生きているきみじゃなくて、眠っているきみ。
完全な拘束はしないが、完全な解放もしない。
愛しているのは、人間のきみじゃなくて、人形のきみ。


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百化繚乱―文豪たちの幻想童話

 

 

『幻想童話名作選-文豪怪異小品集特別篇-』泉鏡花 内田百閒 宮沢賢治ほか著 東雅夫編を読む。いやはや豪華なアンソロジー。おっさんが読んでも、はまってしまう幻想童話ばかり。何篇かチョイスして、話と感想を手短に。

 

『海戦の余波』泉鏡花
日清戦争で戦艦に搭乗して行方不明となった海軍中尉の父。息子・千代太は父が忘れられない。なんとか会いたいと。暴風雨の中、船に乗り、遭難者を救出する。そこから父をたずねる冒険譚がはじまる。竜宮に辿り着く。戦意高揚するかって、しないだろ。男気は感じるが。それにしても、どんだけ澁澤龍彦の小説が鏡花の文体に影響を受けているかを知った。

 

『桃太郎』『三本足の獣』『狼の魂』内田百閒著
童話って結構残酷で結構ナンセンスだったりして。この3作品も、そう。かなり不条理な変てこ話。まったく古びていない。

 

『おもちゃの蝙蝠』佐藤春夫
本物の蝙蝠になりたかったおもちゃの蝙蝠。でも…。相変わらずオシャレなシティ派メルヘン。

 

『幼虫の曲芸』江戸川乱歩
タイトルからして『芋虫』の系列?童話?と思いつつ読んだら、ファーブルのトックリバチの話をネタにした科学啓蒙童話。意外。トックリバチのトリック。

 

『ルルとミミ』夢野久作
ルルとミミは孤児の兄妹。父は鐘づくりの名人だった。父はつくったお寺の鐘が鳴らなくて湖に身を投げた。父の仇というわけではないが、今度はルルが鐘をつくると…。大きなお目目に星がキラキラ。何もかもが砂糖菓子のようにスィート。『ドグラ・マグラ』の作者に、こんな少女漫画チック、乙女系小説があったとは。


『人魚の嘆き』谷崎潤一郎
支那の南京の貴公子が主人公。眉目秀麗、親が残した莫大な財産もある。酒や女性にうつつを抜かすが、退屈はおさまらない。欧人が貴公子のために南の海から人魚を「生け捕って来た」と。人魚に魂を射抜かれた彼は法外な値段を支払って暮らすようになる。
耽美的な一文を引用。

「彼の女は、うつくしい玻璃製の水甕の裡に幽閉せられて、鱗をはやした下半部を、蛇体のようにうねうねとガラスの吸いつかせながら」

『犬と笛』芥川龍之介
主人公は若い樵(きこり)。名は、髪長彦(かみながひこ)。このネーミング、気に入った。
ロン毛イケメン。笛の名手。笛の演奏のお礼に神様の3兄弟から、嗅覚に優れた犬と空を飛ぶ犬と噛む力に優れた犬をもらう。笛で犬たちをコントロールする。二人のお姫様がさらわれたことを知り、犬たちの力で探し出す。二人のお姫様は髪長彦にゾッコン。
二人の武士が彼の秘密を聞き出し、笛を奪い犬を連れ去る。姫の父の大臣のもとへいき、褒美をせしめる。ピンチの髪長彦を救う姫様。

 

『ちんちん小袴』小泉八雲著 池田雅之訳
若妻の元に深夜何百人もの二本差し武士姿の小人がやって来て歌い踊る。それが連夜。若妻はうんざり、げんなり。彼らは「ちんちん小袴」と名乗る。可愛いけど不気味。若妻のあるいけない行為が彼らを招いた。その正体は。

 

『平太郎化物日記』巌谷小波
稲生物怪録』を子ども向けに書き換えた作品。かな。平太郎は化物を呼ぶ力でもあるのだろうか。次々と現れる化物。大人たちはびびってしなうが、平気の平太郎。怖さよりもユーモアを感じてしまう。『鬼滅の刃』がヒットしているし、絵本や漫画にするのもありでは。漫画は霊界から杉浦茂を呼び出して依頼するのはどうでせう。

 

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泉鏡花『海戦の余波』千代太のイメージ:高畠華宵の挿画

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杉浦茂の漫画で『平太郎化物日記』を



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小林泰三版イヤミス?―探偵事務所開業のためならば

 

『因業探偵 新藤礼都の事件簿』小林泰三著を読む。
迂闊にも出ていることを知らなかった。
新藤礼都を知ったのは『密室・殺人』。頭は切れるが、底意地の悪い性格。
脇役からついに主役の座をつかんだのか。

 

彼女は探偵事務所をつくろうとする。
サイコキラーであるレクター博士が優れたプロファイラーであるように。
クラッカーが優れたホワイトハッカーになるように。
前科がある彼女は名探偵になる素質は十分。
ホームズだってポアロだって決して性格は良くないし。

ところが、先立つものがない。
まずは、開業資金をつくろうと様々なアルバイトに励む。
彼女のいくところ、なぜかトラブルや事件が続く。
でないと、ミステリーにはならないのだが。

 

テーマはワイドショーや週刊誌が好みそうなものばかり。
持ち前の推理力や理屈(時には屁理屈、時にはではないかも)、卑怯と思われる手口で
真相解決していく。

 

『保育補助』
子ども好きとは思えないし、保育士の資格などもない。慢性的な人手不足ゆえ認可外保育園で働くこととなった。園長には口外できない保育園経営には致命的と思われる過去があった。その過去を暴くためにいわば潜行した礼都。

 

『剪定』
いつからか公園は、やたら禁止行為が増えていた。リストラかなんかにあって妻にそのことを話せない田沢は今日も公園で愛妻弁当を食べていた。それとて禁止行為だった。市の臨時職員となった礼都は、公園の木々を男のそばで剪定する。
田沢は驚いて弁当を落とす。そこからトラブルとなる。鬱憤がたまっていた男は礼都に文句を言うが、相手が悪い。そこへ自治会長の九度山が加勢する。公園管理者の西田と九度山犬猿の仲。アコギな方法で西田を陥れようとしていた。禁止行為で防ぐ西田。九度山の悪行を暴く礼都。


『散歩代行』
犬の散歩代行のアルバイトを始めた礼都。犬のチビの目線から書かれている。チビはブルドッグのメリーに好意を抱いている。男がチビと礼都を食い入るように見ている。あの男だ。「猫は知っていた」ならぬ「犬は知っていた」。狙われるチビ。一件落着後、懇願されてもう一人のペットシッターになる。毎度ありぃ!


『家庭教師』
アルバイトの定番といえる家庭教師になった礼都。教え子の広重が誘拐されることに。うろたえる父親。ところが誘拐されたのは友人の豪だった。慌てる母親。間違えて誘拐されたのは、礼都の仕業だった。なぜ?キレた母親がわが子を助けたい一心で暴走する。そのドタバタが笑える。

 

『パチプロ』
自称イケメンの吾郎。亡くなった父親の資産管理で高等プータローの身分。ストーカーの幸実に追われてパチンコ店へ逃げ込む。勢いあまってパチンコ玉をひっくり返す。弁償しろと迫る、礼都。

ここからサイコっぽい展開となる。ストーカーだったのは吾郎の方。自身ではイケメンだと思ったのに、ストーカー行為が撮られた写真に写っていたのは父親そっくりのブサメンだった。ウソー!!

 

『後妻』
あ、紀州ドン・ファン死亡事件かよと思う。見た目は良さげな礼都。アルバイトじゃ開業資金は容易に貯まらない。後妻になって老い先短い夫の死を待つ。その遺産で一気に夢を叶える。ところが、家政婦がことあるごとに計画の邪魔をする。見事などんでん返し。

新藤礼都と似たキャラがいるな。誰だっけ。あ、そうそう。『映像研には手を出すな!』の金森さやかだ。

 

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異界はボクらを待っている

 

 

『十四番線上のハレルヤ』大濱普美子著を読む。

装画のインパクトで手にした。6篇の幻想短篇小説集。版元が版元ゆえ一筋縄ではいかないだろと読み始める。いろんな味わいがして、しばし異界へと誘われた。やっぱりな。各篇の内容と感想を手短に。

 

『ラヅカリカヅラの夢』
「5年ほど前に見知らぬ町」のアパートに引っ越してきた教師(たぶん)の米子。海沿いにある町で「屑屋の源さん」やアパートの下に住む「オコモリさん」、占い師(予言者)の「ヤニバア」など奇怪な人々と出会う。埠頭には「奇態な魚が打ち上げられる」。
米子は行きつけの「ジャズ喫茶青帳面」で『ラヅカリカヅラ』のことを知らされる。「この地方の固有種」。稀になる実を食べると「子供が生まれるという言い伝え」がある。そうこうして彼女は伝説の『ラヅカリカヅラ』を探しに行く。ラブクラフトばりの、のっぴきならない光景が描写される。

 

補陀落葵の間』
サキコの母親が再婚した。新しい父親にはサキコと同じ年齢の美樹がいた。サキコは勉強ができるが引っ込み思案。美樹は勉強は苦手だが、可愛らしいルックス。対照的な二人。新しい父親は単身赴任先の中東で亡くなる。残された三人はそれでも安穏に暮らしていた。母親から叔父が亡くなって旅館を相続することになった話を切り出される。母親はその旅館を切り盛りしたいと言い出す。旅館をみんなで見に行くことになる。

ここから、話が入れ子構造、メタフィクションとなる。サキコたちの話とどうやら旅館に関わる母親の縁者の話。彼岸と此岸。リア充のサキコたちと囁いてる彷徨える先祖の霊たち。その対比が素晴らしく、ゾクゾクする。思わぬところで話が交差する。


『十四番線上のハレルヤ』
霊能者の両親から生まれた「私」。「「人」に対する記憶」は優れていた。学生時代に住んでいた「都市を10年ぶりに」訪ねた。十四番線の路面電車に乗る。あるエピソードを思い出す。女性の検札係が来たが、買ったはずの切符が見つからない。失くした!プチパニックになった私。突如、車内のどこからか歌声が聞こえてくる。歌うアコーデオン奏者。そばにいた男が何かを手渡す。私の切符だった。そして「ハレルヤ」と唱える。
記憶の底から再び朗々とした「ハレルヤ」が、空耳か。失われし時を探す旅。

 

『鬼百合の立つところ』
百合子は花屋の店長をしている。長身瘦せ型、楚々としており、いかにも百合という感じ。客としてあらわれた「あなた」。その存在が気になり自宅まで後を追う。あるとき、偶然街で見かけた時もその行く先が気になって尾行する。ほぼストーカー状態。
アルバイトたちから「鬼百合」と呼ばれていることを知る。「鬼百合か」。葬儀用の花束を注文した「あなた」。住所と名前は知っている。彼女はまた「あなた」の部屋を覗きにマンションの避難梯子を登る。


『サクラ散る散るスミレ咲く』
本名は「スミレ」なのだが、「ツミレ」と言ったら亡くなった父親が喜んだので以来「ツミレ」と名乗ることにした。薬剤師をしている母親が兄とツミレを育てる。彼女は知的障碍児らしく、いじめの対象に。ただしその自覚もさほどない。母と兄は彼女を懸命に守る。
本人はのほほんと生きているが、最愛の兄を若いうちに失くす。母親もいつしか老いを迎える。ツミレが還暦のとき、母も亡くなる。いろいろな思い出が頭の中で交錯する。母の死を悲しむより、かすかに聞こえる祭囃子が気になる。お祭りに行きたい。外見は老いても内面には幼い少女が棲んでいる。

 

『劣化ボタン』
VR(ヴァーチャル・リアリティ)がテーマ。急にナウになる。VRショールームとかVRゲームセンターとかがあるが、ついに住まいの内装もVR化。好みでボタン一つでゴージャスにも、ナチュラルにも選べる。単身赴任することになった「僕」が選んだのは、そんな最新型の部屋。
選択肢にグレードアップがあるのはわかるが、グレードダウンがある。仮想落ちぶれ空間か。グレードダウンを選んだわけではないのに、なぜか部屋の様相がひどく貧しくなっていく。VRシステムのエラーなのか、それとも「僕」の心のエラーなのか。どことなくシャーロット・パーキンス・ギルマンの『黄色い壁紙』をイメージさせる。

 

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赤貧笑うがごとし

 

 

無能の人つげ義春著を読む。何遍読み直しただろうか。

 

志ん生ではないが、どうしてビンボー話が始まると、居合わせた、たいていの人は、盛り上がるのだろう。たぶん、それはかつてビンボーだったとか、ビンボー的-ここが肝心、ビンボーとビンボー的は一見似ているが、全然違う-なものを好む癖があるようだ。じゃあ、随分前に流行った『清貧の思想』かと言うと、そういう高尚なものじゃなくて、ひたすらゲスなもの、ゲスであればあるほど、あさましくて笑える。

 

たとえば給料日前、なけなしの一万円を倍にしようと、勇んでパチンコ屋へ行って、ものの見事にすってんてんになるとか(実話)。京都土産でもらった生八つ橋のアンが酸っぱくなっているのに、空腹に負けて晩飯がわりに平らげてしまい、激しい下痢になり医者通いするはめになり、結局高くついたとか(半分実話)。人間も植物みたいに光合成が可能だったら、食費がかからなくていいなあとかとか。

 

仕事の注文がない時や、予想外に稿料が安かったりして、気分が憂鬱になる時は、本棚の奥に仕舞ってあるつげ義春の漫画本を取り出して読む。


初期作品集や温泉探訪物も良いが、最も愛読しているのが本作だ。題名からしてまるで自分のことを言われているようだ。

 

ストーリーを一応紹介しておくと、つげファンならおなじみの売れない漫画家が主人公。でも本人曰く「描けないのではない、描かないのだ」と。多摩川べりの公団に住んでいて、ある日、多摩川にそれこそ無尽蔵にタダで転がっている石を拾って売る商売、石屋を考えつく。そこから探石というきわめてマニアックな世界が描かれている。

 

いままで骨董商売、中古カメラなどに手をしては結局、失敗していた漫画家に対して妻はいい顔をするわけもない。団地のポスティング(チラシ投函)や新聞配達などで糊口をしのいでいる妻からすれば、「漫画、描いて」と懇願するのは、至極当然なわけで。
ま、とても他人事とは思えないわけで。

 

「ねえ。お金にもならないレビューを書いている暇があるなら、知り合いのデザイン会社に営業の電話の一本でもいれてよ」
「はいはい…でも今はズーム営業だしなあ」。いざ外回りに行っても、ムダ足に終わる今日このごろ。でも、帰りにブロック塀に座っている見知らぬキジトラ猫に
声でもかけられれば、幸せになってしまう。

 

川崎長太郎葛西善蔵上林暁など日本の私小説家の作品を彷彿とさせる作風だが、中でも好きなキャラは野鳥を捕らえて碌を食む鳥師で、映画版『無能の人』では、故神代辰巳監督が演じていたが、そこだけフェリーニのモノクロ映画っぽくて、すごおくカッコ良かった。神代辰巳週間とかで特集を組む時は、ぜひ、その鳥師に扮したワンカットをポスターにしてもらいたい。

 

あと、捨て難いのは、古本屋の山井。古本屋の未亡人とねんごろの仲になり、そのまま居着いてしまうというインチキ臭い男のエピソードも泣かせる。作者自身も、喫茶店古書店経営などの小商いを考えていたそうだ。などが述べられている巻末インタビュー『乞食論』は、いわばメーキング・オブ・つげ漫画として必読である。

 

本作は新潮文庫筑摩書房の『つげ義春全集』で読めるが、ぜひ、オリジナルの日本文芸社版を入手されて読むことをおすすめする。

 

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あげるな。誉めるな―学校、家庭、会社での報酬を批判する 

 

 

本書は、「広く支持されている『競争』に異を唱え」、名著の誉れ高い『競争社会をこえて』の続編ともいうべき作品。まずは、アメリカ社会の根底を支えている行動主義批判から始まる。行動主義について作者はこう述べている。

「われわれは考えるよりも行動することを、理論よりも実行を選ぶ国民であり、インテリを信用せず、テクノロジーを崇拝し、帳尻を合わせることから離れられないのだ」

いやあ、鋭い。アメリカに歯向かう敵対勢力に対するアメリカ(政府)の態度は、この一文に集約されるのではないだろうか。

 

その行動主義の最たるものが、報酬であると。報酬は何も子どもに勉強をやらせるためだけの手立てではない。「報奨」「褒美」「賞」、「インセンティブ」…。ノルマを達成したら報償金がもらえる営業マンなど、学校、会社、家庭、考えてみれば、この世は報酬だらけである。

 

また「誉める」ことも作者は「言葉による報酬」だと規定し、批判している。叱り上手より誉め上手になろうなどとその手の育児書やビジネス本が山のようにあるというのに。そのいわば一般常識だと思われていることを、実証例を踏まえながら、実に小気味よくロジカルに反論している。その反論が、なるほど!と、無理なく自然に入って来る。

 

たとえば、読書。本を読んだ子どもに、褒美としてお菓子を与える子と、本を読んでも何も与えない子がいる。褒美につられて、読書する子は、最初はよく読むが、やがて褒美の魅力が低下すると何も与えない子よりも本をよく読まなくなることが紹介されている。同様に、出来高払いも、社員を鼓舞させるカンフル剤には決してならないと。いわゆるアメとムチは百害あって一利なしと。

 

モノで子どもを釣るのは良くないといわれるが、それはたいていは道徳心から来るものであるが、このようにデータで実証的に示されると、考えざるを得ない。では、馬の鼻先にニンジン作戦でないとするならば、どのようなことをすれば、動機づけ、流行の言葉でいえばモチベーション、それになるのだろう。

 

そんなときは、巻末の事項索引を引いてみよう。丁寧につけてある事項索引は、先生、親、管理職、それぞれ立場は違えども、たぶん、それぞれに、役に立つ。

 

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『ナウシカ考 風の谷の黙示録』を読みながら、マンガ版『風の谷のナウシカ』を読む

 

 

 

ナウシカ考 風の谷の黙示録』 赤坂憲雄著を読む。
民俗学や哲学などからマンガ版『風の谷のナウシカ』を読み解いでいる。
面白くてためになる。

 

この本を読みながら、マンガ版『風の谷のナウシカ』全7巻宮崎駿著を何十年ぶりかで読み返した。すっかり忘れていた。長くて濃くて深い。ワイド判だからマンガ単行本より大きな判型なんだけど、それでもコマワリが多くて描き込みもすごいので読むのに時間がかかる。

 

アニメーターゆえ動きのカットが素晴らしい。メーヴェで自在に空を滑走するナウシカ。迫力ある空中戦。その浮遊感、疾走感。王蟲や虫たちの凄まじいモブシーン。

腐海、粘菌、胞子、大海嘯。

 

で、ストーリーにさまざまなテキストがぶち込んである。しかし、人気ラーメン店の秘伝のスープのように、渾然一体。

 

序文をまるごと引用。

 

ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は 数百年のうちに全世界に広まり巨大産業社会を形成するに至った 大地の富をうばいとり大気をけがし 生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は 1000年後に絶頂期に達し やがて急激な衰退をむかえることになった 「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し 複雑高度化した技術体系は失われ 地表のほとんどは不毛の地と化したのである その後産業文明は再建されることなく 永いたそがれの時代を人類は生きることになった」

てな話。「火の7日間」に出動したのが、かの巨神兵

 

ナウシカのモデルが堤中納言物語の『虫愛づる姫君』は知っていたが、
それだけではなく「ギリシャ叙事詩『オデュッセア』に登場する王女に由来」しているそうだ。

 

作者はマンガ版『風の谷のナウシカ』の構造をドストエフスキーの小説の構造に見立てている。ミハイル・バフチン曰く

ドストエフスキーポリフォニー小説の創始者である」

と。
すなわち、

「「それぞれに独立して互いに溶け合うことのないあまたの声と意識」が、あくまで多声的に交錯しながら織りあげてゆく」

と。それが似ていると。

 

マンガ版『風の谷のナウシカ』って、大枠としては『指輪物語』や『ナルニア国物語』などのハイ・ファンタジーの正統な系譜であると思うのだが。

 

次に「ほお!」と思わせたのが、ハイデッガーの『技術への問い』からの比較考察。
訳者・関口浩の「後記」からの長い引用。

「しかし、現代のさまざまな危機が技術的に解決されたとして、すべてが適切に機能するに到ったとして、その世界はパラダイスなのだろうか?これがハイデッガーの問題とするところである。「水素爆弾が爆発することなく、地上での人間の生命が維持されるとき、まさにそのときにこそ、アトミック・エイジとともに世界の或る不気味な変動が始まる」」と、ハイデッガーは言う。原子爆弾水素爆弾の管理が完璧に行われた世界、地球環境のコントロールが技術的にみごとに機能している世界、すべての労働者がついに正当な権利を保障される世界―余暇時間を保障された労働者たちは、休日をたとえば高度に技術的に組織されたレジャーランドで過ごすに違いない―、すべてが機能化した世界で、すべての機能が十全に機能しても、問題は解決するわけではない。むしろそういう世界でこそ技術の問題がいっそう先鋭化する、というのがハイデッガーの言わんとするところなのである」

引用した序文と見事にリンクする。

ならば、『風の谷のナウシカ』は、アポカリプス、ディストピアを描いた漫画なのだろうか。作者は首をふる。

 

「マンガ版『風の谷のナウシカ』は、『黙示録』をなぞった作品ではなく、黙示録的な終末観にたいして叛旗をひるがえした作品」

であると。同感。

アニメーションは多くのスタッフが必要だが、マンガは一人でも描ける。
遠慮なしに、妥協なしに。アニメワークの空き時間にようやく描き上げた。

 

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