難病の子どもが治った?でも、おかしい

 

 

『聖者の落角』芦花公園著を読む。

 

心霊事に関することなら何でも承る佐々木事務所シリーズの三作目。所長のるみは、これまで颯爽と事件の解決に当たっていたが、本作ではなんだかどよーんとしている。陽キャが一転陰キャに。

 

難病に罹った子どもが若い黒服の男によって治癒された。最初は喜んでいたが、不可解な言動や行動を取るようになった。そんな親から相談を受ける。似たケースが続々と。みな、こども医療センターの児童会につながる。

 

相棒の青山は本業の教会の仕事が忙しい。そこで美青年の片山や四国の拝み屋・物部の力を借りる。


子どもの一人は「おさら様」を見たという。そして得体の知れない木霊たち。いったい、それは。

 

こども医療センターの近くにあるお寺に伝わる月祭りの伝承や"おさら観音”信仰や月の力、キリスト教などの蘊蓄が、ストーリーをいっそう奥行きのあるものにする。たとえば、こんなとこ。

 

「おさら様が奇跡を起こすのは、大きな月の出ている日。それで、御詠歌を大勢で歌うと、助けてくれる。それって神様とは違うと思うの。神様って、こちらを見ている存在でしょう。そんなに人間に都合がいい存在ではないと思う」
子どもの祖母の会話を引用。

 

「月の光の影響。そういうふうには考えなかった。おさら様に影響された人間が月を好むようになり、月に向かって祈るだけだと、そう思っていた。lunaticという英単語がある。狂人という意味だ。かつて西欧で月(luna)は人間を狂わせると考えられていたためだという」
るみのモノローグ、一部引用。

 

子どもたちや親に会って話を聴く。そこで起きる怪奇現象。るみは威勢よく立ち向かうのかと思ったら、行動も違った。どうした。


若い男の素性も明らかになる。信仰心の厚いキリスト教徒のハーフ。小児科でカウンセラーの仕事をしていたが、そこで外傷後ストレス障害PTSD)といってもいい辛い体験をしていた。


彼ばっかじゃなくて親などこの作品に出て来る大人の方が難病の子どもたちよりも心の闇は深く、症状は重いように見える。


御詠歌が出て来るが、これはたまたま山形の義父の葬儀で体験した。町内会の女性(講?)が、アカペラで五・七・五・七・七の詞で仏の教えを唱えるもの。和製ブルガリアン・ヴォイス。わかるかな?敬虔な気持ちにさせられたのを覚えている。

 

神や仏でも救いようがない現実と真実を改めて知る。続篇で佐々木るみは、暗黒世界から抜け出られるのか。


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