ダイイング・メッセージは、「木箱を幽霊ホテルへ」

 

 

『幽霊ホテルからの手紙』蔡駿著 舩山むつみ訳を読む。


作家の周旋と警察官の葉䔥は親友同士。かつては恋の宿敵だったが。周旋が葉䔥の元へ。手には木箱が。偶然バスで隣り合わせた田園という美しい女性から預かってくれと。彼女は血にまみれていた。気になって相談をした。彼は上海を離れていたが、戻るや否や田園の住まいへ。警備の人から彼女は心臓発作で亡くなったと。部屋に帰ると
留守番電話に田園からの伝言が入っていた。「木箱を幽霊ホテルに届けてほしい」と。

周旋は幽霊ホテルに関する情報を得るため図書館にこもり、古い新聞を漁る。やっと当該記事を見つける。田園の身元(伝統演劇の女優)も幽霊ホテルの住所も葉䔥が突き止めてくれた。さすが、警察官。

 

海沿いにある幽霊ホテル。しかし、リゾートホテルはほど遠い。隣接する巨大な墓地。塩害で作物が育たないので古来より「死体が埋められてきた地」だと。幽霊ホテルは閉鎖中に見えたが、実は、ひっそりと営業していた。ただし、老朽化しており、電気も電話も通じない。持参したノートPCも故障してしまい、周旋は葉䔥に近況報告を手紙でする。延々と歩いて投函。ホテルに手紙は届かない。番外地か。12通の長い長い『幽霊ホテルからの手紙』で話は進む。

 

怪しげなオーナー一族やスタッフ、宿泊客。幽霊ホテルの立ち入り禁止の階などを探る。そこに新たな人物が。木箱の中身は。幽霊ホテルの付近を散歩するが、その風景描写がシュールレアリスムの絵画みたいに奇怪。

 

周旋は具合の悪い父親の様子伺いを葉䔥に依頼する。彼が幽霊ホテルに行っていることを話すと父親は驚愕する。まさか。父親も戦時下、兵隊として訪ねたのだ。そこでの悲惨な事件。思い出したくなかったのに、なぜ、息子が。

 

周旋は宿泊していた女子大生3人娘の一人、水月と恋仲になる。この恋も悲しい結末が。


作者は「中国のスティーヴン・キング」と言われているそうな。幽霊ホテルの人びとの狂気は、本文中に書かれたとおり『シャイニング』のようでもあり、二人の女子大生の凄惨な殺され方は『キャリー』、ただし映画版ラストのほうを彷彿とさせる。

 

最後に周旋と父など登場人物と幽霊ホテルとのさまざまな因果関係が明らかになる。
不思議な人の縁(えにし)や運命を感じさせる。隠し味に村上春樹を効かせた(たぶん)純文学濃度高めの、後味の良いホラーミステリー。もちろん、主役はゴシック風味満点の幽霊ホテル。

 

結末は、どうなんだろ。意見がわかれるところ。ま、ホラーミステリーと銘打っている以上は、謎解きや伏線回収は必須なのかもしれないが。個人的には、むりやりオチつけなくても、それまでが、ハラハラドキドキ、虚と実が見事に撹拌されておお怖っ!てさせてくれれば、それでOK!と思ってしまう今日この頃。


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