戦前に書かれた探偵小説短篇集、いま読んでも存分に面白い

偽悪病患者 (創元推理文庫 Mお 16-1)

『偽悪病患者』大下宇陀児著を読む。

 

作者は江戸川乱歩らと肩を並べる「日本探偵小説黎明期」の「巨匠」の一人だそうだ。その短篇集。手替え品替え、人間のあさましさ、いやらしさを抉った小説巧者ぶりとモダンさを感じる。何篇かのあらすじと感想らしきものを。

 

『偽悪病患者』
兄と妹の書簡形式で書かれたミステリー。妹・喬子の夫・漆戸は病気で寝込んでいる。そこへ兄と夫の同級生・佐治が来訪。佐治は女性を弄ぶ危険な美男子ゆえ気をつけなさいと忠告する。しかし、気が付くと佐治に惹かれていた喬子。夫の会社のパートナーの最賀を用心棒代わりに家にいてもらうことに。喬子から手紙が途絶え、案じる兄の元に、漆戸が殺されたという電報が届く。佐治がしょっ引かれる。これは、ミステリー好きの人なら真犯人が途中からわかるだろう。とはいえ、兄が手紙で真犯人をあげる結末は鮮やか。書簡探偵。

 

『毒』
妻に先立たれた小野寺。幼稚園児の男児と幼い女児と男児がいた。彼らのために1年後再婚する。ママちゃん(新しいママ)に慣れたのは女児だった。小野寺が不在の時、佐々沼という小野寺より若い男がやって来る。偶然、かくれんぼして密会シーンを目撃する男児。最近体調を崩している小野寺。ママちゃんがかいがいしく世話をするがのだが。いわば戦前版「後妻業の女」。殺人の完全犯罪を目論むが、子どもの意外な行動からもろくも崩れる。解題で乱歩が作者は子どもを描くのが上手だと。確かに。表題が、ほぼネタバレ。「後妻の誤算」(仮)とかいかが。

 

『金色の獏』
骨董店に置いてある獏の置物を30代の紳士が購入しようとした。ところが、先約があるという。若い女性との値段が合わなくて後日ということになっている。骨董商の老人は、儲け心が芽生えて紳士にいくらで買うかと訊ねる。結局、二千円という高値で売れて骨董商はほくほく顔。そこへ若い女性が現われる。二千円で売れたと聞くと、安すぎると。しくじったと思っていると、翌朝、紳士が再び来店。実は獏の置物は対になっている。もう片割れの金色の獏を探してほしいと。見つけてくれれば二万円で買うと。知っている先を駆けずり回ったが、見つからない。諦めかけて中華料理店に入ると片割れがある。拝み倒して大枚はたいて譲ってもい、紳士の逗留先のホテルに行くと。コンゲームもののお手本のような作品。

 

『決闘介添人』
温泉で休暇を楽しんでいるK画伯。そこへ突然玲子がやって来た。独身、中高年の画伯は、まんざらでもなかった。何日か経って彼女が来た理由がわかる。弟子の楠田と入江、両者から求愛されて困った挙句のことだった。マッチョタイプの楠田と青白きインテリタイプの入江。二人はついに玲子をめぐって決闘をすることになる。介添人を頼まれた画伯。彼も彼女に好意を持っていた。この二人が消えてくれれば。うまくいったと思ったその矢先。

 

『魔法街』
ミステリーというよりも幻想味・SF味が濃い掌編連作。(1)「怪電車事件」真夜中の幽霊路面電車、都市伝説。(2)「怪ラジオ事件」午前二時半、突然、ラジオが鳴る。なぜか殺人事件の中継が。(3)「怪救世軍事件」M市には海上に二つの施設があった。一つは妖艶な女性たちが酒をもてなす「カフェ浮城」。もう一つはホームレスの施設、救世軍の「新ノアの方舟」。「カフェ浮城」が突如、爆発して沈没する。これらの怪事件には魔法使いが関わっていると。『ウルトラQ』で実相寺昭雄監督に撮ってもらいたかった。

 

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