成瀬巳喜男監督の『晩菊』を見る。いやあ辛口の映画でした。
元芸者の三人の女性の芸者を卒業した後の生き方。一人は独身で高利貸(杉村春子)。もう二人(細川ちか子と望月優子)はいっしょに暮らしているが、掃除婦だけでは暮らしが厳しく、つい昔のよしみで借金を重ねる。でも、取立ては厳しい。
二人にはそれぞれ息子(小泉博)と娘(有馬稲子)がいるが、だらしない親を反面教師として
ちゃっかり世を渡ろうとしている。
高利貸の女性のもとに、かつて心中をしそこなった男が金の工面にやってくるが鼻であしらわれる。もう一人、好きだった色男(上原謙)が来訪して酒席となり盛り上がるが、結局、こちらも金策が目当てだった。可愛さ余って憎さ百倍。杉村春子の男に対する悪口のモノローグがすさまじい。
人間の老いと醜、あさましさ哀しさ、でも、そこから生まれる虚しい笑い。
原作は林芙美子。『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリンが人気のようだが、未読、林芙美子もひけを取らない。
で、思い出した。四谷三丁目から信濃町に向かう途中にたぶん元玄人筋と思われるお婆さんが切り盛りしている呑み屋があった。会社の同僚に連れていってもらったんだけど、カウンターだけの店。その奥は、お婆さんの寝泊りしている部屋が垣間見えた。
すごい乱雑ぶりだった。
渋谷道玄坂にも、そこに負けないゲイバーがあった。壊れかけた急な階段を登ると、ベテランの男のママさんがいた。越路吹雪の歌の口パクが十八番だった。去年の5月にその界隈を通ったら、一画まるごと新しいビルになっていた。
晩菊というと、妻の郷里である山形の菊の漬物の名前でもあるのだが。