思った以上の出来栄えと上から目線で称賛したいミステリ&奇譚集

 

 

『幽霊紳士/異常物語-柴田錬三郎ミステリ集-』柴田錬三郎著を読む。

 

読んだことはないが『眠狂四郎』の作者が書いた本格ミステリ。さほど期待しないで読んだら、当たり!だった。柴錬先生、ミステリ好きでもあったのだ。

 

『幽霊紳士』12話は、大詰めにどこからともなく紳士の幽霊があらわれて事件の真相や謎を解明する話。元ネタはたぶんアガサ・クリスティーの『謎のクィン氏』あたりだと思うのだが。クィン氏は幽霊のような人間だが、こちらは本物の幽霊。各話ともキャラクターが重なって話の展開に奥行きを与えている。こんな感じ。

 

『女社長が心中した』
「警視庁刑事部捜査第一課・刑事杉戸三郎」は、やり手の女性社長・品口将江と青年の心中事件の捜査に当たる。会社の経営が思わしくなって心中した。で、落着するはずが、灰色の紳士が登場して事件をひっくり返す。実は女性秘書らが心中に見せかけた周到に練られた殺人事件だった。


『老優が自殺した』
私立探偵・猪木敬吉が杉戸三郎を訪れる。猪木は警視庁OB。有名な新劇俳優・村崎史郎が亡くなった。事故か、事件か。猪木は村崎の「日常捜査を依頼」されていた。村崎は病気で俳優を続けることが困難になり、指導者になっていた。手塩にかけた女性が女優となって開花して、彼の元を離れる。新たな恋人もできた。新たな事実を猪木にさらす灰色の紳士。

 

『異常物語』8話は、さまざまな奇妙な味わいが存分に楽しめる奇譚集。切り口が古びていなくてびっくりした。こんな感じ。

 

『生きていた独裁者』
「日本人留学生椿次郎」は、パリで夜の女性・ジャンヌと出会う。ジャンヌの方がかなり年上。客の一人がヒットラーだと聞かされる。ヒトラーが生存していた?半信半疑の椿。やはりフェイクだった。最後のどんでん返しが見事。

 

『名探偵誕生』
「名探偵シャーロック・ホームズ」のデビュー作は『緋色の研究』とされているが、実はそれよりも前に書かれた未発表のノートがあるという。『役者の独語』というタイトルの作品が紹介される、このノートは「7000ドル」という高値でアメリカの愛好家に。ところが。

 

『午前零時の殺人』
ヒッチコック監督がパリをテーマに映画を撮ろうとやって来た。ところが、シナリオが一向に進まない。そこへ怪情報が舞い込んでくる。監督が指定された場所へ行くと、怪事件に遭遇する。しかも、彼の行動は映像化されていた。

 

そう言えば、同じ佐藤春夫門下生だった大坪砂男が、なかなか自作がまとまらず、アイデアを柴田に提供して糊口をしのいでいたとか。この作品にも使われたものがあるのだろう。ただし、かたやメジャー、かたやマイナーでは二人組んで和製エラリー・クイーン岡嶋二人の先駆けとはいかなかったのだろうね。

 

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