漢字る 感じる―元祖ボーイズラブ小説

 

 

『紺青のわかれ』塚本邦雄著を読む。一作目の小説だそうだ。

十二神将変』で圧倒された作者の小説、復刻版文庫第二弾。

そんなに厚くない短篇集。なのに、読み終えるまで時間がかかった。
ルビ付きの難しい漢字で埋められた濃密な文体。元祖ボーイズラブ小説。

その奔放で絢爛な男色の世界は、飛ばし読みを赦してはくれない。
試しに通常のスピードで頁をめくってみたら、まったく世界が頭に入って来ない。
第一、もったいない、畏れ多い。手短にあらすじや感想などを。

 

『蘭』
予備校生の駿に父親から突然、別れの電話が。家出先から当座の資金の場所を伝えられる。父親が愛聴していた『逝ける皇女のためのパヴァーヌ』のLPをかけようとしたら手紙を発見。差出人は医師の男性。父親の愛人だった。ところが、医師は駿ともできていた。父親が駿にとったむごい所業とは。

 

『秋鶯囀』
趣味が長続きしない有閑マダムの真帆。夫も、義弟も呆れ気味。いま熱をあげているのは教会通い。中でも聖歌隊ボーイソプラノにしびれて、息子・山彦を聖歌隊の一員にしてもらう。仲介したのが、ママ友の杏子。山彦には音楽の才能があるらしく、神父から直々に将来は欧州に留学させてゆくゆくは神父にさせたいという申し出が。心が揺れる真帆。しかし、そこには山彦をカスラート(変声期前に去勢してボーイソプラノを保持する)にしようとするなどの裏が…。個人的にツボ。敬虔と不敬虔、建前と本音、意地の悪いユーモアが根底にあって。

 

『冥府燦爛』
森茉莉の小説の登場人物の名前に驚いたが、負けないくらいの名前。妖しい店が並んだ射干(ひあふぎ)町地下街を歩く二人の男性。ここに出て来るブティックや酒場などの漢字系ネーミングの凝っていること。高尚なこと。キラキラネームを見たら作者はどう思うのだろう。夜の地下街はこの世の冥府。

 

『見よ眠れる船を』
松江の宍道湖に住む祝部(はふり)から家に招待された水越。訪ねると生憎、喪中だった。二人は聖書研究グループのメンバーだった。祝部の論文に感銘を受けた水越。いつしか友情が愛情に。しかし、家を継ぐためか祝部は結婚する。若妻・四季子の思わせぶりな態度。彼女は二人の関係に気づいているような。代々朝鮮人参の生産と卸をしていたが、父親が逝去した。中海の島にある人参畑を一手に管理していたのが蓬十。人参畑へ行く船の中で夜中密かに行われていたものとは。

 

『与那国蚕は秋の贐』
ブルガリアの老舗品会社ガビ化粧品経営者のボリスがお忍びで来日。京都を案内した真名夫が気に入られて日本での代理店を務めることになった。弟の叡智はカメラマン。専属モデル鳥奈が悪女的存在で兄弟はおろかボリスまで惑わせる。蛾が好きという鳥奈のキャラが魅力的。他の作品に出て来る女性たちもヴァンプつーか、クセが強いのお。一枚のポスターが世の中に大きな影響力を持っていた広告の良き時代も感じさせる。

 

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