『掘る人』岩阪恵子著を移動中に読む。
人生の後半戦を迎え、それなりに、くたびれてきた女性と男性の、日常的なできごとをすくい上げている短編集。
子どものいない中年夫婦の静かな夫婦生活、姑と同居して夫が単身赴任しているその妻、別れた夫婦など。奇をてらわない筆致、シチュエーション、ほんとうにどこにでもいる人々を書いているのだが、ともかく普通にうまいのだ。
ふだんは奥底に沈んでいるが、時折、浮上してくる性的衝動とかそのあたりを仰々しくない筋運びで展開していく。主婦目線、鋭いまでの。作者は団塊の世代ゆえリアルタイムに去来するものを小説にしてきたのだろうか。
平成の、令和の、向田邦子とでもいえばいいのか。幸田文にも通じるものもあるし。アリス・マンローあたりにも。あ、合掌。山田太一脚本のドラマとか。あったよ、オジサン、オバサンの読む小説が。他のも読まなきゃ。
経歴を見ると、野間文芸新人賞、平林たい子文学賞、芸術選奨文部大臣賞、紫式部賞、
川端康成文学賞を受賞している。すごい。
地味は滋味。また、ゴロあわせのタイトルがぱっと浮かんだ。滲みるなあ。