デビュー作にすべてが

ピアノ・レッスン (新潮クレスト・ブックス)

ピアノ・レッスン (新潮クレスト・ブックス)

 

ちょっとアクシデントがあった。
予想外の出費が痛い。
原稿を送る。
修正がなければ確定申告にかからなきゃ。

ピアノ・レッスンアリス・マンロー著 小竹由美子訳を読む。
新作はもう書かないと聞いていた。
あ、デビュー作か。まだ翻訳されていなかったんだ。

マンローの他の作品の感想で私小説と書いたが、
デビュー作ゆえいっそうそれが濃い。

 

『ウォーカー・ブラザーズ・カウボーイ』
「キツネの飼育業」をしていた父親が事業を失敗。
移動販売員になった父親の姿を書いた。
世渡り下手、口下手だが、子どもたちには
やさしい。
訳者あとがきによると母親は「元教師」。
「野心家」だから当たれば大金持ちに化けるかもしれない
男を夫にした。大甘な父親と違ってこちらは厳しく、うるさい。


『仕事場』
駆け出し作家となったマンロー。
家では専業主婦なので創作に打ち込まない。
仕事場用の部屋を借りる。
あこがれの仕事場。
傑作を書くつもりが、大家のお節介が。
親切を拒んだら手のひら返しで
音がうるさいなど、いちゃもんをつけてくる。

 

『一服の薬』
ファーストキスと子守り先の家で夫婦が外出中に
初めての飲酒で悪酔いしたなど
青春時代の甘酸っぱさに満ちている。
松任谷ではなく荒井由実時代の楽曲のような作品。
このようにみずみずしい作品が何篇かある。

 

『赤いワンピース―1946年』
裁縫が得意ではない母親が縫ってくれたワンピース。
お年頃だから当時流行していたファッションを
身に着けたかったが、厳しい家計を知っていて
口には出さない。
「ハイスクールのクリスマス・ダンス」。
言うなればデビュタント。
精一杯おしゃれをして参加する。
男子に送ってもらってキスをする。胸キュン。

誰もが経験していることを
細部まで見つめて隠れていたものを露わにする。
「日常の中の非日常」を短篇で。
なるほど、「現代のチェーホフ」と言われるゆえん。


山本夏彦だっけ。

向田邦子は突然あらわれてほとんど名人である」と言ったのは。
そんな気持ち。


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