ウェルカムバック―身も蓋もない題名だけど花も実もある『小説』

 

小説

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たとえばハン・ガンの『菜食主義者』を読んだとき、作風が誰かに似ていると思った。
既読感。そうだ、増田みず子だ。
増田の『シングル・セル』は、ぼっちだっていいじゃんという新しさがあった。
その後のいわゆる「おひとり様」の先駆け的作品。

買ったり、借りたりして作品をほとんど読んだ。
で、忘れていた。新作が出ていないことを。

 

19年ぶりの小説。題名が『小説』。そんなぁ。

 

気になる書けないのか、書かないのか。そのあたりが書かれている。

高校の先輩男性と結婚。子どもはつくらないことにしていた。
ガンになったり、老親の世話などでいつしか小説の注文は来なくなったと。

 

「38年」ぶりに実家に帰る。
両親の老い、父親は痴呆症になって子どもがえり。本性のまま動き、本音で話すようになる。父親はまもなく亡くなる。施設に入った母親を看取る。

 

縁あって大学の講師となって小説創作を教えていた。
それも定年退職となる。

若い学生の作品を読み、指導するのは書くよりも楽しかったと。

 

良き理解者だった文芸評論家・秋山駿との交流。
将来という暗闇に作者が進むべき道を照らしてくれた。

 

身辺雑記、私小説の類で枯淡の境地が書かれているのかと思ったら、意外にアクティブ。

 

「体力の衰え」を感じてトレーナーからレッスンを受ける。
「プロの総合格闘技」の選手でもある彼に淡い恋心を抱く。

コロナ禍でジムへ行けなくなったので、走り出す。


「走るのは、とても楽しい」そして書くことも―。

 韓国のフェミニズム文学が好きな人なら、きっとはまるはず。

ウェルカムバック―身も蓋もない題名だけど花も実もある『小説』。

 

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