断ち切れないルーツ

あのころ、天皇は神だった

あのころ、天皇は神だった


『あの頃、天皇は神だった』ジュリー・オオツカ著 小竹由美子訳を読む。
『屋根裏の仏さま』ジュリー・オオツカ著
レビューでぼくはこう書いている。

「日本人がいなくなった町の記述で終わる。
ここで。砂漠の強制収容所での「わたしたち」の暮らしも
読みたいけどね」

この本にそれが書いてある。
こちらの方が先に刊行された。
デビュー作が絶版となったので新訳で。


日本がハワイの真珠湾に奇襲攻撃をかけた日から
アメリカでは日系人は敵とみなされるようになった。
まだ敵ではないか。
アメリカか日本か精神の踏み絵をさせる。
大人の男性は逮捕され、日系人家族は否応なしに
砂漠などの強制収容所に移送される。

ルーツは日本であっても
暮らしているのはアメリカ。
一世と違って二世はほぼアメリカ人だろう。
それが突然、人並みに生きる権利を剥奪される。

この本は日米戦争が勃発して強制収容所に移送する前、
移送中、強制収容所での過酷な暮らし、
戦後再び暮らしていた家に戻る日々と
時系列による5本の短編が収めてある。

『あの頃、天皇は神だった』では
日本人の証拠と見られるものを母親が焼き払う。
手紙、写真などなど。

ちょっと引用。

 

「戦時転住局は、それぞれに鉄道運賃と25ドルを現金で
持たせて自宅へ送り返した。―略―25ドルというのは、あとで
知ったのだが、刑務所から釈放される犯罪人に渡されるのと
同じ額だった」
(『よその家の裏庭で』)

 

 

周囲の人々には冷たい扱いを受け
母親は職探しに苦労する。
強制収容所にいた間、貸していてすっかり荒れた自宅は
「よその家」に思える。
幸いにも父親は無事帰って来るが、恐らくPTSDなのだろう。
子どもたちからはやつれて精彩がなく別人に見える。

勇猛と言われた日系人部隊だが、
 強制収容所にいる家族のために、名誉のために
自分のルーツである日本と戦うことは、
ダブルバインドだったわけで。

連行するFBIや警察官、陸軍軍人などは
象徴的に記されている。
大きな圧力、黒い影として。
何やらこのおぞましい影が
世界のあちこちで見え隠れしている。

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