『老人のための残酷童話』 倉橋由美子著を読む。
いやあ実に久しぶりで。で、この本、風刺やブラックユーモアが利いていて、あっという間に読んでしまった。これから著者の作品をゆるゆると読み直していこうかなと。
単行本で刊行されたのが2003年。これからやって来る本格的な高齢社会をある意味、意地悪く予言しているところもある。何篇かを取り上げてみよう。こんな内容。
『ある老人の図書館』
とてつもなく巨大な図書館が出て来る。稀覯本ばっかなんで貸し出しはできない。
当然利用者は減る一方。その中で毎日通ってくる老人がいた。おじいさんかおばあさんか、よくわからない。やがて24時間開館となり、老人は棲むのも同然となる。監視スクリーンに姿は映されない。館内を探すと異臭とゴミが。それは…。ボルヘスの『バベルの図書館』へのオマージュか。隣の区の図書館。古今東西の全集本が揃っていて、思わず、ここに住むたいと思ったことがある。
『子を欲しがる老女』
主人公は80歳間近の元大学教授の女性。結婚や子育てには見向きもせず研究と教育一筋。70歳を超えてからにわかに子供がほしくなる。しかし年齢的に自分の卵子による人口受精は困難、すると、「神」と名乗る男が現われる。おばあさんはすぐさま、妊娠、出産。「神」そっくりの男児を産んだが…。まさに「おひとりさま」ブームの先駆け的な作品。
『水妖女』
いまでいう美魔女の話。おばあさんは女優。高齢なのに肌はぴちぴち、シミひとつない。美容整形といううわさ話も。秘密は「医食美同源」の食生活。それと年下の若い美しい愛人。美少年の生き胆でも食うているのか。つきあった後、彼らの数人は病気で亡くなっていた。仙人の修行を実践しているおじいさんとテレビで対談。不老不死のヒントを得ようとした。1年後、小学校で子供に水を噴きかける老女が。子供たちの一部は水を浴び、即死。老女は、あのおばあさんだった。
『閻羅長官』
おじいさんは元判事。定年後、町を歩いては手帳に何やらメモしている。極秘の仕事のようでおばあさんもよくわからない。元裁判官のおじいさんが亡くなった。メモには、「ちょっと留守にする。体はそのままに」と。5日後、おじいさんは生き返る。このパターンが何度か繰り返される。おじいさんの留守中に元教員の老人が訪ねてくる。「ご主人は閻羅長官」だと。裁判官のキャリアが生かせる転職先が地獄とは。おじいさんはおばあさんも冥界行きに誘うのだが。おばあさんは三下り半を突きつける。そして退職金を請求する。地獄の沙汰も金次第というが、今世も。
『臓器回収大作戦』
ある夜、おばあさんが殺された。腎臓の一つがなくなっていた。そのような事件が連続して起こる。被害者は臓器移植を受けた者という共通点があった。当初は切り裂き魔といわれたが、手口が腕の立つ外科医並に鮮やか。切り取られた臓器は何の目的で、いったいどこへ。冥界では増大する臓器移植者の扱いで混乱していた。たとえば死者AにBという他人の臓器を移植した場合、「鬼籍登録」がすんなりいかない。実は大学教授の優秀な脳を移植していた某国の大統領。その脳も鬼籍大臣により取り出される。
『地獄めぐり』
バス旅行などは旅好きの高齢者に人気だが、「地獄めぐり」見学ツアーも負けずに人気。天国は案外単調でつまらないとか。老夫婦はゴージャスな「特選地獄めぐり」を申し込む。「見学して気に入った地獄があれば、その場で入獄できる」特典が売り。「飢餓地獄」「飽食地獄」「拒食地獄」「不安地獄」「恐怖地獄」などを巡る。落語の「地獄八景亡者戯」のよう。