あとを引く怖さ―ポップなガーリッシュホラー

 

 

『寝煙草の危険』マリアーナ・エンリケス著 宮崎真紀訳を読む。

 

「アルゼンチンのホラープリンセス」と呼ばれているとか。核にあるのは女の子の普遍的な脆さと危うさ。劣等感と優越感。それにホラーをまぶす。話は、いわゆる都市伝説で括られるが、それを独創的にアップデートしている。いやはや、どの短編も巧みな書きっぷりでしびれる。

 

作者の好きな音楽やホラー映画が見え隠れする、ナウな感覚は、かつて岡崎京子の漫画を読んだときのような衝撃を受けた。たとえるなら友だちとオールナイトで『13日の金曜日』5本立てを見る感じ。怖さの余り、手で顔を覆いながらも、指の隙間からこっそりのぞき込む感じ。何篇かをピックアップ。

 

『ちっちゃな天使を掘り返す』
嵐の後、ぬかるんだ庭から骨らしきものを見つけた私。その骨は、幼くして死んだおばあちゃんの妹らしい。名前はアンへリータ。十年後、アンヘリータが現われ、ストーカーのように私につきまとう。『コンバット』のビック・モロー好きのおばあちゃんが最高。

 

『湧水池の聖母』
私はディエゴが好きだった。でも、彼はシルビアが好きで、シルビアも彼が好きだった。チックショー!夏、みんなで採石場にある湧水池に行くことになった。でも、ディエゴは私なんかに見向きもしない。湧水池の聖母という一番大きな池で水遊びをしていると、大きな黒い野犬たちが。ヤバい!女の子たちは着替えて逃げ出し、バスに乗る。置いてけぼりにされたディエゴとシルビアの悲鳴が聞こえる。

 

『どこにあるの、心臓』
世の中にはいろんなフェチがいるが、彼女は稀な心音フェチ。心音のCDをヘッドホンで聞きながら自慰していたが、ボーイフレンドができてからは、じかに耳で彼の心音を聞く。で、興奮する。

 

『肉』
アルゼンチンの若きロックスター、サンティアゴエスピナが自殺した。その死に方が悲惨でファンの若い女性に大きなショックを与える。こともあろうに少女二人が彼の墓から遺体を発掘して肉を貪る。「骨まで愛して」というヒット曲があったが、こちらは「肉まで愛して」。

 

『誕生会でも洗礼式でもなく』
ニコは犬の散歩で貯めたお金でビデオカメラを買った。セックスの撮影、子供の水泳教室の映像など盗撮で小銭を稼ぐことを思いついた。蛇の道は蛇。娘を撮影してほしいという注文が。娘のマルセラは、カミソリなどで手首を傷つけるリストカット(通称リスカ)などの自傷行為をしていたが、それは彼の仕業だと。撮影したビデオテープには何も映っていなかった。


『戻ってくる子供たち』
メチは「死亡したり行方不明になったりした子供の記録を維持管理」する仕事をしていた。彼女のデータファイリングは市当局内でも評価が高かった。子供たちの行方が気になるようになったのは、新聞記者のペドロと付き合うようになったからだ。二人の関係は、恋人というよりも親友に近い。死んでいたことになっていた子供たちが多数発見されるのだが…。

 

『わたしたちが死者と話していたとき』
ウィジャボードで霊を呼び出していた少女たち。煙草の煙が原因でその家では禁止となる。じゃあ、どこで。見つかったのはバスを乗り継いで行く遠い場所にあるピノキアの家。そこで同級生のフリータは、行方不明者となった両親のことを話す。降霊術で死者と話していたが、ピノキアに異変が起こり、それっきりとなる。日本だとこっくりさんをテーマにしたものと似ている。

 

『寝煙草の危険』
夜紛れ込んだ蝶や蛾を潰すと粉になる。そのさまは、煙草の灰のようだ。パウラはキナ臭いにおいで目を覚ます。近所のおばあさんが寝煙草の不始末で火事で焼け死んだことを知る。彼女もヘビースモーカー。毛布を膝で立ててベッドの上にテントをつくり、その中で一服する。自慰もする。救いようのない現実から逃避するための束の間の一福。


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