泣ける、微笑む、しみじみさせられる、プラトーノフの短篇

 

 

『ポトゥダニ川-プラトーノフ短編集-』アンドレイ・プラトーノフ著 正村和子訳 三浦みどり訳を読む。

 

作者って全体小説を書くような長篇型の作家だと思っていたが、オーソドックスな短篇小説も書いていたんだ。この本には、「ドストエフスキーの再来」と言われたリアリズムの濃いものと意外にもメルヘン味あふれるものとの2方向性の5作品が収められている。手短に紹介。

 

『ポトゥダニ川』
ロシア革命直後に国を二分した内戦が起きた。ようやく終戦となり、故郷に着の身着のままで帰還した元赤軍兵のニキータ。懐かしのポトゥダニ川。彼の兄二人は世界大戦で行方不明。ひょっこり帰って来た末息子に父親ははじめ、戸惑う。
街に出て父親と縁談のあったピアノ教師の娘・リューバと再会を喜ぶ。彼女は一人ぼっちで灯油にも事欠く貧しい暮らし。指物師をしていた父親の紹介で家具工場で働く。ニキータは彼女の元に通い詰める。彼女は医学アカデミーに通ってゆくゆくは医師になる夢があった。すったもんだでようやく結婚の運びとなるが、突然ニキータはホームレスの後をついて放逐する。
市場の劣悪な環境で酷使される日々。偶然、父親に発見される。リューバはポトゥダニ川の投身自殺を図った。幸い、助かったが。ようやく心が通じ合った二人。

 

『ユーシカ』
鍛冶場で下働きをしているユーシカという男がいた。貧弱な体形で着た切り雀の老人。いつしか大人からも子どもからも蔑みの対象になっていた。働きづめの彼だが、胸を患っていた。とても実年齢40歳には見えなかった。夏に一か月休暇をもらってどこかへ行っていた。病が悪化して亡くなってしまう。しばらくして娘が訪ねてくる。ユーシカは懸命に働いて得た賃金を足長おじさんとして孤児である娘を支援していたと。医師になった娘は、この町の病院に勤務して無償で病気に苦しむ人々を診るようになる。

 

セミョーン-過ぎた時代の物語-』
「貧乏人の子だくさん」の話。鍛冶職人の父親は朝から晩まで働いても低賃金。母親は間髪なく出産。生まれた弟や妹の面倒はセミョーンがみる。手押し車であやす。食べ物がなくなると大家を訪ねて交渉することも。女の子を生んで、産後の肥立ちが悪く、母親は亡くなる。山羊を飼ってそのお乳を飲ませようという、けなげなセミョーン。


『鉄ばば』
好奇心旺盛な男の子・エゴール。コガネムシに語りかける。家に連れてきたイモムシにも質問攻めにする。その声を耳にして母親がやって来る。「寝ないと鉄ばばにさらわれちゃうよう」と。母親はいかに鉄ばばが恐ろしいかを話すが、エゴールは、そんな鉄ばばをやっつけたくなって夜中に家を出る。谷間で鉄ばばに会うが…。とっても可愛らしい結末。

 

『たくさんの面白いことについての話』
怪童イワン・コプチコフのビルドゥングスロマンというか、あまりにも頭も体もずば抜けたイワン。商才にも長けたイワン。もしくは聖人イワンの誕生の物語。電気工学のエンジニアだった彼の理系の才を反映したSFチックな奇譚。


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