『プリテンド・ファーザー』白岩玄著を読む。
恭平と章吾は高校の同級生。偶然、再開して二人のいまが似ていることに驚く。
どちらもシングルファーザーということ。
恭平は4歳の女の子を、章吾は1歳半の男の子を育てている。厳密に言うと章吾の妻は単身で中近東のとある国に赴任している。恭平の妻は病死した。
章吾は元保育士で現在、フリーのベビーシッター。子どもの扱いはいわばプロ。一方、恭平は子どもができた以前はバリバリの敏腕営業マンだった。それが子育てに協力しようと異動を希望し、デスク職となる。しかし、心の片隅には営業職への未練があった。
イクメンとして頑張っているが、やはり目の届かないところがある。そこで共同生活を申し込む。章吾は恭平のベビーシッターとして報酬を得る。ベビーシッターから家のさまざまなことまでてきぱきとこなす。
出来杉くん(byドラえもん)に思える章吾だが、切れる瞬間もある。父親が寝込んで母親が介護している。母親は長男と嫁とはお互い折が合わず、次男の彼にいろいろなことを頼まれる。嫌味や愚痴の聞き役。優しい性格ゆえ勤務していた保育園でも実家でも板挟みになりかねない。
話が進むと章吾と妻と子どもの関係が明らかになる。すべてを呑みこんだ入籍。彼は愛しているが、妻の方は…。ああやっぱり出来杉くんだ。
恭平は妻の妹から娘の養子縁組を申し込まれる。揺らぐ。一度は認めるが、結局、自分で育てることを決める。娘と妻の墓参りに行く。陶芸家の義父もまた若いときに妻を亡くして二人の娘を単身で育てあげた。恭平の子どもへの思いなどを聞いて義父は彼の生き方が変わったことに気づく。
家族になろうと決めた矢先に章吾の妻から現地に来ないかという誘いを受ける。二つの父子がともに暮らしていく日々。一つの家族という芽が出たのに。さて、どうなる。
この本にはいまどきの父親や母親、育児、新しい家族、就業スタイルなどが丁寧に静かな筆致で描かれている。