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川端康成異相短篇集 (中公文庫 か 30-7)

川端康成異相短篇集』川端康成著 高原英理編を読む。

 

川端の短篇を怪談や奇想、乱歩いうところの奇妙な話などで括られるものがある。
編者は、あえてそれらを「異相」と呼ぶ。『心中』の解説で編者は異相をこう解釈している。

「そこに読み取られるのは別世界や幻想の出来事ではなく、確かに現世界での(決して稀な事とは言えない)ある悲劇であり、その現世界を常とは異なる相から、あるいは別次元から眺め語ったものであるかのように私には思われた」

 

何篇かのあらすじや感想などを。

 

『心中』
わずか文庫本で2ページの作品だが、いやはや、度肝抜かれた。大坪砂男の『天狗』とシャーリィ・ジャクスンの『くじ』が好きな掌編小説なんだけど、それらにひけを取らない。何回か読み直しては、ため息をついた。すぐ読めるのであらすじは書かない。


『故郷』
昔住んでいたところを訪ねる夢を見ることがある。主人公は故郷の村へ行く。そこで出会う不可思議な現象。タイムリープものか。幼なじみのふくちゃんに再会する。少女のまま。でも、背後霊のように現在の老いたふくちゃんがいる。つげ義春っぽい。

 

『死体紹介人』
男は死体と二度結婚した。驚くことに妻にした二人の死体は姉と妹だった。で、妹の葬式で新たな女性と結婚する。身寄りのない姉妹の死体は、男の知り合いの医大生の大学の研究室に寄付をする。で、薄謝を受け取る。川端康成の『眠れる美女』にも通じるネクロフィリア(死体性愛)味が漂っている。
同じテーマを扱っても大江健三郎の『奇妙な仕事』とは、まったく異なる世界。どちらも好きなのだが。

 

『赤い喪服』
女学校で赤痢が発症した。芳子も感染して亡くなってしまった。霊柩車で高等小学校を過ぎようとすると少女たちが車を取り囲む。母親の白い喪服がなぜか赤く染まる。それは少女たちが赤痢に罹っているからなのか。赤い喪服の映像が脳内に浮かぶ。歪んでいるというか、精神の変調を暗示しているような。

 

『めずらしい人』
国語教師だった父親は娘と二人暮し。妻とは離婚している。昨今、やたら「めずらしい人に会った」と娘に話す。妄想なのか、虚言癖なのか。あるいは痴呆症が発症したのか。

 

『眠り薬』
これは自身が常用していた睡眠薬の副作用による失敗談をユーモラスに書いたエッセイ。この薬を服用すると夢遊病者のようになって彷徨する。たとえば自宅で用を足したあとにふらついて転倒する。定宿で部屋を間違えてうっかりご婦人の部屋や紳士の部屋に入ってしまう。いまなら通報されるかも。盛っているのか、いないのか。ユーモラスと書いたが、ブラック度は高め。睡眠薬ジャンキーの先輩として芥川龍之介をあげている。

 

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