破滅への囁き

ブラッドシンプル/ザ・スリラー [DVD]

『ブラッドシンプル/ザ・スリラー』監督 ジョエル&イーサン・コーエンを見る。

 

撃たれて、しばらくして身体からたらたらと滴れていく血。クライマックスシーンの銃弾によりぶち抜かれた壁の穴から漏れ出る光の筋。最も怖いのは、コケおどしの音楽や特殊メイクではなく、このように静かに淡々と映し出されていくシークェンスなのではないだろうか。

 

本作は、コーエン兄弟のデビュー作『ブラッドシンプル』を再編集したもの。ブラッシュアップ版というらしい。以前、見たはずなのだが、全く新作のように思えた。

 

バーの経営者が、妻の素行調査を私立探偵に依頼する。夫と妻、そして妻の浮気相手のバーの従業員の男との三角関係。夫が殺される。その犯人は…。ちょっとした小さな亀裂が、どんどん大きく、深くなり、そして、ついには、破滅に至ってしまう。

 

罪を犯すことは、ウエハースを破るかのように、簡単なことなのかもしれない。暴力は、理性で日常的には抑制されているが、時として堰を切ったようにどうしようもなくなる時がある。そこらへんをいとおしむことができなければ、未来永劫、ハードボイルドは理解不能である。断言してもいい。

 

正真正銘クライムノベルムービー。お約束をきちんと踏まえた、お手本のような映画だ。どうしても、ジム・トンプスンの「ポップ1280」とカブッてしまう。なんつーか、やはり、クライムノベルは、埃臭いアメリカ南部の片田舎じゃないといけないわけで。一見退屈そうな町にも、実は、悲劇や惨劇の種子は発芽したくてウズウズしているのだ。

 

ヒロイン役を演じているのは、コーエン兄弟どちらかの奥さんで、『ファーゴ』で腹ボテの警察官を熱演していた。私立探偵役が、ユーモラスで残虐といういい味を出している。

 

コーエン兄弟の作る映画は、千変万化なのだが、共通して言えるのは、人間の哀しさ、脆さ、不条理さと変な顔のキャラクターにある。その独特の映像様式は、どこから来るものなのだろう。

 

人気blogランキング