ヌーヴォー・ヌーヴォー・ロマン―かなりこじつけ

 

『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』ペ・スア著 斎藤真理子訳を読む。

 

ウルという女性が出て来る3つの物語。それぞれがつながっているのか、いないのか。よく見えないまま、読み進む。ストーリーが希薄な物語なのだが、断片の一つ一つが絡みついて、ぼんやりと世界が見えてくる。


かつてシュールレアリズムやヌーヴォー・ロマンにはまっていたことがある者としては、懐かしさを覚えながら、鶏の手羽先煮を手づかみで骨までちゅーちゅー貪るように味わう。古いようで新しい。新しいようで古い。思いつくままに挙げるならば、金井美恵子倉橋由美子山尾悠子ヴァージニア・ウルフ、アラン ロブ=グリエ、マルグリッド・デュラスなど。あ、ポール・オースターとかも。


彼女は記憶を喪失したのか、周囲を観察してそれらを手がかりに以前の自分を捜索、再構築していく。彼女は行方不明の自分探しの依頼人であり、私立探偵でもある。レイモンド・チャンドラー、ジョン・メカス、コヨーテなど散りばめられた固有名詞が織りなす小宇宙。コヨーテはジョニ・ミッチェルの楽曲かと思ったら、ヨーゼフ・ボイスでした。

 

余談だが、アンズタケなど紹介されている料理の描写が、ほんとうにおいしそうで。


読んでいて韓国文学であることをまったくといっていいほど感じさせない。グローバルスタンダードな文学という言い回しは、あまり良くないが、そんな感じ。ポスト・ポスト・モダン文学。

 

訳者あとがきで作者は「ドイツ語の優れた翻訳家でもある」ことを知る。多和田葉子を連想するのは、ぼくだけではないだろう。

 

さらに過去の作品を紹介している。読みたい本ばかりだが、特に短篇集が。クールな即物的な文体や世界観はまったく違うが、最近読んだ『テーゲベックのきれいな香り 』山崎修平著にもつながる作品にも思える。勝手な思い込み。

 

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