抜けられます―「あやかしの裏通り」にご用心

 

 

アラン・ツイスト博士シリーズの次は、名探偵オーウェン・バーンズシリーズへ。
まずは、『あやかしの裏通り』ポール・アルテ著 平岡敦訳を読む。

 

オーウェン・バーンズは、美術評論家でアマチュア探偵。助手的役割のアキレスが事件の顛末を語るスタイル。

 

舞台は20世紀初頭のロンドン。名物の霧が立ち込めると、裏通りが現れる。霧が晴れると同時に裏通りは消滅してしまう。クラーケンストリート。別名「あやかしの裏通り」。運悪く、その通りに足を運んだ者は、行方不明者となる。都市伝説の一種かと
思えるのだが。ところが、オーウェンの友人でアメリカの外交官ラルフがその通りに入って命からがら逃げ出した。


なぜ偶然、通りに走ったのか、ラルフが逃亡犯ジャック・ダドクリフに極似していて警察に追われていたから。身分を証明するものは投宿先のホテルに置いてきた。しかも彼は殺人と思しき光景を目撃したと。再び戻ろうとすると路地は消えていた。それを聞いたオーウェンらは、捜査にかかる。

 

「あやかしの裏通り」での犠牲者は4人。2人は生死不明、1人は通りを調べている最中に亡くなる。もう1人は精神に異常をきたす。裏通りを歩く探偵と助手。オーウェンの友人で地図をつくっている店で、通りについて書かれた冊子を入手する。

 

「この路地は時間と空間を自由に行き来できる」「過去を読み取り、未来を予言できる」と書かれてあった。タイムマシーンのような路地。

 

ラルフが見かけた男は美女といた。その捜査中に国会議員のハーバード・ジャンセン卿の自殺を号外で知る。探偵は男がリチャード・エヴァ―トン男爵であると確信し、オーウェンたちは汽車で男爵の館へ。ラルフが裏通りで男爵らしき人を見かけたことを伝えるが、男爵は否定する。男爵夫人の美貌にくらっとくるオーウェン

 

宿屋の亭主から過去の男爵の事件を聞き出す。かつてダンサーだったロマと思われるエキゾチックな風貌のゾエにぞっこんだった男爵。ところが彼女は違う男と付き合うようになる。嫉妬にかられた男爵。激しいケンカ。男爵はナイフで刺される。首を絞められ絶命寸前のゾエ。結局、ゾエは村を出て、男爵は村の名家の令嬢のヒーサーを妻に迎えた。

 

美貌のエヴァ―トン男爵夫人の正体、作者のこれまでのパターンならこうだと予測したら、あら、ぴたり。ファンならお約束と拍車喝采ってとこ。

 

路地が主役とは。最後にオーウェンが解き明かす消えた通りのネタ明かしがやや強引で大仰すぎるかもしれないが、ここまで構築した力技に感服する。

 

探偵オーウェンと助手アキレスのやりとりは、どうしてもホームズとワトソンと印象が重なる。オマージュつーか、狙いなのかもしれないが。

 

表紙の絵がなんだか素人クサいと思ったら、著者自らが日本語版用に描いたものとは。

 

都会のうらぶれた路地、千鳥足でふらふら歩いている、実はそこがタイム・ワープ・ゾーン「あやかしの裏通り」だったりして。


人気blogランキング