おそれイタリアした―名作、怪作、珍作…思った以上に楽しめた

 

19世紀イタリア怪奇幻想短篇集 (光文社古典新訳文庫)
 

 

『19世紀イタリア怪奇幻想短篇集』橋本勝雄編・訳を読む。

 

編・訳者解説によると、19世紀イタリアはイギリスやドイツに比べて「幻想小説」が盛んではなかったそうだ。盛んではないが、まったくなかったわけではない。埋もれていた19世紀イタリア「幻想小説」から良さげなものをピックアップしたのが、この本。名盤ならぬ名作、怪作、珍作発掘。思った以上に楽しめた。

 

『木苺のなかの魂』イジーノ・ウーゴ・タルケッティ
主人公は「若い男爵B」。使用人の娘が行方不明となった。恋多き娘。男爵は猟に行く途中、木苺を食べると異変が起きる。女性らしきものが憑依している。その木苺の実っている場所には失踪した娘の亡骸があった。

 

『ファ・ゴア・二の幽霊』ヴィットリオ・ピーカ
アルベルトは魔術を崇拝しているパオロに願いを依頼する。「日本人の新郎ファ・ゴア・二の死」と引きかえに。遠く離れた京都で新郎は亡くなった。彼は願い通り莫大な遺産を相続、美しい女性と結婚することに。結婚式を終えた夜、ファ・ゴア・二の幽霊が出る、復讐のために。当時の「ジャポニズム」人気が背景にあるとか。しかし日本人新郎の名前が「ファ・ゴア・二」とは。日本も中国も同じに見えるのだな。

 

『死後の告解』レミージョ・ゼーナ
チフスで亡くなったドイツ人の娘。彼女は「告解のために甦る」。霊安所で起きた不思議な現象は現実か、そうではないのか。

 

『黒のビショップ』アッリーゴ・ボイト
黒人トムと元英国貴族でチェス名人・ジョージ・アンダーセンがチェスで熾烈な戦いを行う。チェスの駒の黒と白に黒人差別問題を重ねている。

 

『魔術師』カルロ・ドッスィ
幼い頃から死を恐れていた魔術師。死への恐怖を取り除こうと研究する。医学、自然科学も学ぶ。しかし死からは逃れられない。

 

『クリスマスの夜』カミッロ・ボイト
ジョルジョは亡くなった姉・エミリアによく似た風貌のお針子の声をかける。「ひどい胃病」に悩まされていた。そしてお針子との恋も。老女中の語りとジョルジョの手稿で構成。

 

夢遊病の一症例』ルイージ・カプアーナ
ベルギーの警察本部勤務のスペンゲルは夢遊病者だった。その症状が出た時に特殊な才能を発揮、遭遇した数々の事件を「解決」する。夢遊病警官は名探偵というタイトルが浮かんだ。

 

『未来世紀に関する哲学的物語』イッポリト・ニエーヴォ
おおSFではないか。オラフ・ステープルドンの作品のようなスケール感や眩暈(げんうん)感はないが、これはこれでなかなかに読ませる。「2180年無気力ペスト」が地球に蔓延するそうだ。中でも「オムンコロ(人造人間)」―たぶんロボット―が量産されるシーンはひかれた。

 

『三匹のカタツムリ』ヴィットリオ・インブリアーニ
艶笑つーかエロい寓話。確かにカルヴィーノにつながる洒脱なユーモアがある。


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