チェーホフの『サハリン島』を読もう、読もうと思っていたのに、 違う『サハリン島』を読んでしまった

 

サハリン島

サハリン島

 

 

サハリン島エドゥアルド・ヴェルキン著 北川和美毛利公美訳を読んだ。

 

核戦争が勃発して鎖国政策をとった日本だけが生き残る。日本は大日本帝国となって世界を制覇する。大日本帝国大学民族学部で応用未来学を専攻する大学院生、日ロのハーフであるシレーニは日本領土となったサハリン島へフィールドワークに行く。サハリン島はかつてチェーホフが訪ねた時と同様に流刑地となっていた。

 

彼女が島の各地に足を運んで見た光景は凄まじい。流刑者や難民は朝鮮人、中国人、黒人など人種のるつぼ。町には荒くれ者があふれ、カルト宗教「這い這い教」が勢力を伸ばしている。高レベルの残留放射能、日々の食糧にも事欠く。さらに死体が燃料の発電所、マッド建築家が手がけた入獄すると発狂する刑務所、住民のお楽しみ(?)集団リンチ「二グロぶちのめし」などいわば生き地獄のような島。雑踏とカオス。

 

追い打ちをかけるように巨大地震が起こる。大陸からMOB(移動性恐水病)に罹りゾンビとなった大群が押し寄せる。生き地獄サハリン島めぐりをしていたシレーニたちは一転ゾンビから逃げるサバイバルゲームの体となる。新型コロナウィルスに襲われているいまとも重なる。

 

今日日(きょうび)のロシアのSF系の作家というと、ぼくは、ソローキンを挙げる。ソローキンより20歳ほど若いヴェルキンは、ポスト・アポカリプスの世界を描いてもどこか軽やかなのだ。いい意味でも、悪い意味でも。ソローキンには帝政ロシアが復活する『親衛隊士の日』という作品があるが。

 

『日本の読者へ』で作者が日本文学やアニメ好きであることを述べている。芥川龍之介からアニメ『龍の子太郎』。安部公房から大江健三郎村上龍村上春樹宮崎駿などなど。巨大地震のくだりは小松左京の『日本沈没』へのリスペクトと思われる。

 

最近見た『シンエヴァンゲリオン劇場版』ではサードインパクト後の東京や日本を描いているが、それにも似たものを感じた。ただし、まだ『シンエヴァンゲリオン劇場版』の方が救いはあるが。

 

表紙がロシア構成主義へのオマージュっぽいのに対して裏表紙はめちゃポップ。MOB(移動性恐水病)に罹ったゾンビの顔のアップだろうか。この小説の世界をうまくとらえている。

 


人気blogランキング