「文明繁栄による環境負荷が崩壊の契機を生み出す」

 

 

 

ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの(上)』を読む。

同じ著者の話題作『銃・病原菌・鉄』が文明の興隆を鋭く捉えているのに対して、この本は間逆の視点からのアプローチをしており、ええと解説によると「文明繁栄による環境負荷が崩壊の契機を生み出す」。(たとえば、いまの中国がぴったりだけど)いうなれば、時制を超えた事例集みたいなもの。

 

第一章では、自然豊かな牧場とマス釣り天国・モンタナが取り上げられている。そうか、『リバーランズスルーイット』の舞台はモンタナの川だったのね。印象派の絵のような美しい風景とデビューまもないブラッド・ピットがよかったなあ。釣りをやらないぼくでも釣りが好きになった映画。

 

作者はモンタナの住民にインタビューをして、それをまとめているのだが、リゾートとして地価が高騰、一方、牛の価格は物価の上昇率にまったく追いつかず、悲鳴をあげる酪農家。都会から年収が大幅にダウンしても故郷モンタナに戻ってきた人たちなど。


『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの(下)』」では、環境問題におけるサスティナビリティ(継続性)の過去の範例として江戸時代の日本の森林管理を挙げている。

徳川幕府という中央集権体制がとった「消極的対応策」が功を奏したと。「すなわち森林管理、木材運搬、町での木材消費を対象」に、「将軍、大名、農民それぞれが利益を享受しながら」森林を「管理することができた」。

 

ただし、それは森林の天敵ともいうべき「ヤギやヒツジがいなかった」ことと、温帯雨林帯気候ゆえ「樹木の再生が速い」こと。これらが政策よりも幸いであった。なんだかくすぐったいような。別段、作者は賛辞しているわけじゃない。あくまでも事実を客観的に述べているのだが。


確かに里山だの入会地だの日本の制度は森林、山とうまくつきあってきた。でも、いまの森林政策じゃ継続は困難で。

 

それよりも知らなかったのが、「ドミニカ共和国とハイチ」の環境の違い。地図を見れば、両国とも同じカリブ海イスパニョーラ島にある。いまは緑豊かな(そして野球の世界最大の輸出国として知られる)ドミニカ共和国と「不毛な平野以外は何も見えない」ハイチ。「森林被膜における差異は、国内経済の差異と符合している」そうで、


自然環境もドミニカの方が恵まれているが、それよりも「社会と政治の相違」がその主たる原因だと。両国とも独裁政権が続いたが、ドミニカの独裁者は環境保護政策をとったが、ハイチはとらなかった。「トップダウン方式」なので、要職は一族郎党が独占したが、抵抗する者や違反者には軍隊を派兵するなど徹底的にその芽を潰した。そこまでしなければ、環境はキープできないのか、良くならないのか。なんか複雑な心持ち。
現在はドミニカは、運営をNGOなどの「ボトムアップ方式」によってうまく機能しているとか。


ともかく、学際的領域を自在に往来する作者の知性には、うなるしかない。


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