「自然という古文書を読み解く」

 

 

『絶滅恐竜からのメッセージ  地球大異変と人間圏』松井孝典著を読む。

 

恐竜はなぜ絶滅したか。ご存知のように実にさまざまな説がある。「哺乳類の台頭によるもの」「種の老化」「(恐竜が餌として)新しい植物に対応できなかった」などなど。作者は、物理学者アルバレスらが提唱した「隕石衝突説」に着目する。直径50m以上の巨大な隕石が地球に激突して、想像を絶する「大爆発を起こす」。爆発のみならず、その後「何十万年にわたって環境撹乱をひきおこすことが指摘」されているそうだ。

 

作者は隕石衝突で生じたクレーターを捜して、メキシコ・ユカタン半島、チュチュルブ村の地下に眠る巨大クレーターのフィールドワークに出かける。ユカタン半島と言えばマヤ遺跡。有名な365段の階段のあるピラミッド型神殿や熱帯雨林、「マヤ文明を生んだと聖なる泉セノーラ」などをも訪ねる。

 

さらに作者は、キューバにある6500万年前の津波跡(津波堆積層)を調査しに行く。実際に目にして得られる感慨。このあたりの文章は、あたかも冒険小説のように、読んでいてわくわくしてくる。このフィールドワークの中で、恐竜絶滅の理由は「隕石衝突説」への確信を強くしていく。

 

そしてこのチュチュルブの隕石衝突よりも、地球環境に擾乱(じょうらん)をひきおこしているのが「人間圏の肥大」であると。人間が「ストック(蓄積)型のモノとエネルギーの利用」は、かなりのものであることを、具体的なデータを挙げながら端的に説明している。「現在の環境問題論議は、対処療法にすぎない」とも。

 

最終章の「自滅を回避する方途」では、その一方法としてレンタルを提案している。たとえば、それは、江戸時代の日本にあった「里山(さとやま)」である。「山や海を公有地として、みなで手入れしてその結果をメリットとして受ける」もので、下刈りなどを施された山は美しく整備され、人々は四季折々に山の幸を分かち合いながら、受け取る、まさに共生の見本である。「入会地(いりあいち)」と言った方が、より通じるかもしれないが。

 

作者は、昨今流行りの「地球にやさしい」や「自然との共生」というフレーズについてこうバッサリと切っている。


「ほんとうに地球にやさしくしたいなら、極端な物言いかもしれないが、人間圏を消滅させ、人類が再び生物圏にもどるに如(し)くはない」

また

「生物圏と共生しようというならば、社会の体制を生物圏から分化していなかった縄文時代以前に戻すしかない」


「自然という古文書を読み解く」いいフレーズなので、まんま、タイトルに引用した。絶滅した恐竜から学ぶこと、自然からその生成の物語をきちんと解釈することは、人間が同じ轍を踏まないためにも、あるいは新たなブレイクスルーを見出すためにも、
重要なことである。コンパクトな本だが、多くのことを考えさせられる。

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