因果は巡る 持つ者と持たざる者の差

 

 

 

『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(上下)ジャレド・ダイアモンド著 倉骨 彰訳を読む。    


最近、「デジタル・デバイド」という言葉をよく耳にする。要するに、パソコンができる人とできない人とでは、今後ますます格差(デバイド)が生じるといったもので、これが南北問題、貧富の差など、いみじくも「世界の地域間の格差を生み出しているものは何か」という本書の主題の一つと見事なまでにオーバーラップしていく。

 

表題である『銃・病原菌・鉄』は、スペイン人ピサロインカ帝国を滅亡させた要因を挙げたものである。

 

ピサロを成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構そして文字を持っていたことである」

 

では、なぜスペイン人はそれらを持っていて、アメリカ先住民は持っていなかったのか。持つ者と持たざる者の差、果たしてそれは。あるいは、持っているから優れているのか、先進国なのか。持っていないから劣っているのか、途上国なのか。

 

表題も良いが、またそのコンテンツが良い。「なぜインカ帝国のほうがスペインを征服できなかったのか」「シマウマはなぜ家畜にならなかったのか」など。いやおうなしにも、知的好奇心をかきたてられる。

 

イギリスなどヨーロッパ各国で蔓延していた口蹄疫(こうていえき)。これは、牛や豚など偶蹄目の家畜が感染する病気なのだが、家畜に適する条件として本書の中で、作者は次の6項目を挙げている。「餌の経済効率が良く」「速く成長しなければ価値がない」「衆人下でのセックスを気にせず」「気性が荒くなく」「パニックになりにくい性格で」「序列性のある集団を形成しない」。

 

口蹄疫は人間には感染しないし、家畜も死には至らしめないそうだ。しかし、家畜は太らなくなる。つまり家畜としての価値がなくなるというからやはり、経済面からみて、恐ろしい病気なのである。ついでながら、風邪と同じウィルス感染で、そのスピードはすばやく、万が一、日本に大々的に上陸したら、日本の家畜はたちまち全滅するというから、パニックに陥るのは当然のことだろう。

 

と、こんな具合に多彩な事象を解明するのに役立つ。コロンブスの卵とでもいうべきなのか、いままで何の疑問を抱かなったことを分子生物学、進化生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの学際的領域から次々と一刀両断していく。快哉である。コーフン!である。その道の専門家から見れば、周知のことであると、鼻白んでいるかもしれないが、上下2巻、優れたミステリーのように飽きさせることなく読ませるのは、やはり賛辞するしかないだろう。

 

世知辛い現実から逃れ、しばし、1万3000年の人間の歴史をトリップしてみるのも一興ではないだろうか。

 

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