博士の完璧性への異常なまでの欲情

 

 よく降る雨。

 

『虫の思想誌』池田清彦著を読む。

 

構造主義生物学」を標榜する作者の虫マニアとしての-「虫屋」と呼ぶのだそうだが、-その虫への尋常ならざる傾倒ぶりは、読んでいておかしい。いきなり、こんな風にのたまわれる。

 

「時に虫など採って何の役に立つのか、と私に聞く人がいる。女に惚れ何かの役に立ちますか、と聞き返そうと思うこともあるけれど~」

 

まあマニアとはそういう人種である。そして幸いにして作者は虫好きが高じて生物学者になれたが、虫好きだからと言って、私のように学究の途は開けないとも述べている。
一事が万事、そんな調子。


もう、きっぱりと明快に言いきってしまう。そこが心地良く思えてしまうんだなあ。さすが唯物論者と大向こうから声でもかけたいくらい。政治家の国会答弁なんかとは対極的で。

 

また、「ネオダーウィニズム」に対して親の仇のように、激しく罵倒する部分が随所にあり、そのあたりも、おとなげないと言うのか、ま、好き嫌いが分かれるところだろう。もちろん、ぼくは大ファンなのだが。

 

ちなみにネオダーウィニズムとは


ダーウィンの進化論とメンデルの遺伝学が合体したものだ。その主張は、遺伝子(DNA)に起こる偶然の突然変異と、その結果生じた形質の変異にかかる自然選択により、すべての進化現象は説明可能というものだ」


作者は科学者として、この「偶然」が気に入らないようだ。

 

「私が信奉する構造主義科学論によれば、科学は偶然を排除するゲームなのである」

 

 

とはいえ、本書はほとんどが、虫談義。そのさわりだけを述べるなら、たとえば前から手に入れたくてしようがなかったオーストラリアのクワガタムシ養老孟司先生が持っていると知るや研究室を訪ね、1匹のみならず全部もらった話。

 

作者は「完璧性への欲情」と言っているが、これは、チョコエッグだので、全種類収集しなければ枕を高くして眠れないあなたと同じ心理だろう。

 

昆虫学者や昆虫マニアを種の絶滅の悪の手先とみなす風潮への特にマスコミへの実証的な批判。タイの屋台で食べたコオロギのカラ揚げが美味で忘れられず、コオロギのカラ揚げパーティをしようとしても誰ものってこない話。あ、そうそうハチノコやザザムシの話もね。信州へ行った時、旅館の晩ご飯に先付で出たけど、ハチノコはうっすらとハチミツの味がしたけど、ザザムシは何とも形容しがたい味だった。

 

屋久島にカミキリムシの採集にでかけ、何日も島ごもりして、家に電話をしたら、妻子が発熱で、病床に伏しており、泣く泣く帰らなければならなかった話などなど、そのクレイジーぶりには、しばしば笑わされてしまう。ここだけでも一読の価値あり。

 

虫の話ではなく、もっと「構造主義生物学」について知りたい人には『構造主義生物学とは何か』と『構造主義と進化論』(いずれも海鳴社刊)をおすすめする。作者の『新しい生物学の教科書』も刺激的で一度読むだすと、やめられない、止まらない状態。

 

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