フェティッシュ・モード―視覚的って書いたけど、触覚的の方が適切かもしれない

 

 

『彼が彼女の女だった頃』赤坂真理著を読む。

 

作者は一貫して現代人の身体機能不全を書いている。っていうのは大げさか。病気、失調、変調など、一見それはアブノーマルのように思えるが、よおく考えていくと、誰もが経験する、もしくは経験する可能性があり、ノーマルとの線引きは、曖昧なわけで。そこらへんのグラデーションのあたりを視覚的、映像的な文体で、実に巧みに文字化している。

 

最新モードやトレンド、音楽への造詣が深いことも、現代の濃厚なリアリティを出すのには欠かせないことだろう。

 

本作は短編小説集で、結果的にいろんなテイストで構成されている。ともすると、落穂拾い的寄せ集めの短編集ってのがあるんだけど、これはアタリ! まるで洋楽のような日本のロックっていう感じ。洋楽かと思って聞いていると、日本語の歌詞が途中からはじまる、そんなJ−WAVE御用達のような…。

 

SM、ボンテージなどのフェティッシュな世界やクラブなどの世界をテーマにしても、村上龍のような過剰なまでの情報サービスはなく、あくまでもクールに、淡々とエロティシズムを表現している。

 

たとえば、こんなとこ。『桃』という作品で女の子が、街中でナンパされた台湾人と桃を食べるシーンが出てくる。桃を食べるというと、鈴木清順の映画の有名なワンシーンを思い浮かべるが、かなりエロティック。桃の芳香と齧ると果肉から滴り落ちる果汁。どさくさまぎれに、彼女は彼に胸をまさぐられ、乳首をつままれる。彼女は、つやつやした「絹のサテン」のノーパッドのブラジャーをしていて、「乳首の固く尖るのをすぐ外に伝えてしまう」。

 

視覚的って書いたけど、触覚的の方が適切かもしれない。肌触り、触感。やっぱり、身体的。意図的なのか、作者の資質なのかは知らないが、即物的で、低体温。だけど、カッコいい。広告のコピーだと本文は、ボディ・コピーっていうんだけど、ナイスボディ・コピー。

 

思春期特有の衝動的な苛立ちを描いた『幻の軍隊』が秀逸。心の中のピストルの引き鉄。心の中でとどまるのか、実際に、行動に起こすのか。あやうさ、あやふやさは、ナウだよね。

 

短編小説だから当たり前だけど、文字数は少ない。けれど、行間から伝わるもの、読んだ後の余韻が心地良く、何度も、それを噛みしめた。

 

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