遅れてきた青年

 

 


『劇画狂時代 「ヤングコミック」の神話』岡崎英生著を読む。

 

ヤングコミック』(以下ヤンコミ)創刊当時編集者だった作者が、封印を解いたクロニクル。と書いてみたとて、『ヤンコミ』って、どの年代まで知ってるんだろう。ぼくがリアルタイムでラーメン屋とかでペラペラやっていた頃は、『御用牙』や石井隆に人気があった。けど、作者にいわせれば、それはもう『ヤンコミ』じゃないって。

 

往年の『ヤンコミ』の看板漫画の見開きページが再録されていて、これがうれしい。

真崎守、上村一夫宮谷一彦。この三人が作品を発表していた頃が、『ヤンコミ』の黄金期だったとか。作者は、宮谷の担当編集者で、そのやりとりが、真実だけに、読ませる。たとえば、他誌には全力で投球したものを載せるが、『ヤンコミ』には手抜きのものを載せる。絵にこだわりすぎる余り、原稿を落としそうになる。挙句の果てに、入稿直前にアシスタントともども蒸発してしまうなど。漫画家と担当編集者のせめぎあい、いかに才能を引き出させるか、読者をドキリとさせる作品に仕上げるか。なんかこのへんの熱が、70年代だという気がする。

 

作者が原稿を受け取り、水道橋の歩道橋を歩いていると、駅方面が煙っている。それは催涙ガスだった。俗にいうお茶の水カルチェラタン闘争かよ! なんてくだりが、ゴダールしていて、やけにカッコよく見えてしまう。手塚漫画に対抗して生まれた劇画、劇画をメインにした青年コミック誌には憤懣やりかたのない憤りやエネルギーがあふれていた。時代とシンクロしていた先鋭的な劇画とそれを支持する読み手の、まさに蜜月時代だった。

 

この本を読むと、宮谷のピークは、ぼくが青年コミック誌を読み出す前だった。追体験でもいいから、まとめて読んでみたい。代々木の予備校に通っている頃、『少年チャンピオン』で宮谷の新連載がはじまり期待して読んだ。筋肉をグロテスクなまでに描きこむ絵は迫力を増していたが、ちょっとストーリーがあぶないと思ったら、しばらくして連載打ち切りになってしまった。

 

松浦寿輝あたりが好きな人なら、ゼッタイ、ハマる。そうなんだ、松浦の『巴』って、宮谷の漫画のようだし。

 

真崎守は、何か漫画で人生の教訓をタレているようなところやインチキ精神世界風なところやコマ割りなどに新しい手法を取り入れているようなところが気に食わなかった。周囲には、ファンがいっぱいいたが。

 

上村一夫は、もっとダメだった。生理的にあの絵が苦手だった。上手だ。それは認める。でも、古クサかった。大学時代、『同棲時代』をまだ夢中になって読んでいる女の子がいたけど、同じ同棲漫画なら林静一の『赤色エレジー』か安部慎一だぜいと心の中でつぶやいていた。

 

宮谷一彦の名前は知らなくとも、「はっぴいえんど」の『風町ろまん』の都電とメンバーのリアルなイラストレーションを描いた人と説明すれば、わかってもらえるかな。うまいよ、絵がほんとに。

 

ミュージシャンや役者だったら、年齢がキャリアになって、テクもついて、味になったりする。その点、漫画家の旬って短いよね。ほんとうに面白さが光っているなんて、一瞬で。ふと、そんなことを思った。

 

宮谷の『性蝕記』がたまらなく、読みたい。どなたか、お持ちでないでしょうか。

 

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