来る来ない 来た

だれか、来る 作者:ヨン・フォッセ 白水社 Amazon 『だれか、来る』 ヨン・フォッセ著 河合純枝訳を読む。 「2023年ノーベル文学賞を受賞した、ノルウェーを代表する劇作家の」「初の日本語訳本」。『だれか、来る』は戯曲。戯曲、なんか読みにくい。いやい…

おどるでく、踊る木偶、オドラデク

おどるでく-猫又伝奇集 (中公文庫 む 33-1) 作者:室井 光広 中央公論新社 Amazon 『おどるでく-猫又伝奇集』室井光広著を読む。 『猫又拾遺』は作者の出身地である南会津を「猫又」と名付け、不可思議な話を集めた短篇集。宮沢賢治は岩手県を「イーハトーボ…

つながりすぎない、つながり―ネットの普遍的なキイワードは「リンク」「シェア」「フラット」+「グローバル」

インターネット的 (PHP新書) 作者:糸井重里 PHP研究所 Amazon 『インターネット的』糸井重里著を久々に再読する。昔、書いたレビューを。 「インターネット」と「インターネット的」とは、どう違うのか。「インターネット」は、通信メディアの一手段、作者は…

多文化主義の必然性とは

アラブ政治の今を読む 作者:池内 恵 中央公論新社 Amazon 『アラブ政治の今を読む』池内恵著を読む。 作者よりも、父親や伯父さんの方がぼくにはなじみが深い。何せ父親がカフカ&温泉狂、伯父さんが理系の教授&名エッセイストとして知られる。 読んでいて思…

ゾンビのように甦るリバータリアニズム

リバータリアニズム入門―現代アメリカの〈民衆の保守思想〉 作者:デイヴィッド ボウツ 洋泉社 Amazon 『リバータリアニズム入門―現代アメリカの「民衆の保守思想」』デイヴィッド・ボウツ著を読む。 まず、二ヵ所引用してみる。 a.「今日、有権者の怒りの感…

戦争による帰国。船上で去来したものは

日米交換船 作者:鶴見 俊輔,加藤 典洋,黒川 創 新潮社 Amazon 『日米交換船』鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創著を読む。 最初の鼎談がひじょうにすばらしく、いままで鶴見が明かさなかった留学時代、留学船、「日米交換船」*など、第二次世界大戦の様子が生々し…

30世紀。人は「器官なき身体」か「身体なき器官」か

ディアスポラ 作者:グレッグ イーガン 早川書房 Amazon 『ディアスポラ』グレッグ・イーガン著 山岸真訳を読む。物理学書、宗教書(?)と思って読めばいいのかな。と覚悟して読んだら、そうでもなかった。 翻訳がいいのか、歯が立たなくてもへっちゃら!と非-S…

芸術家な日々。描かずに、造らずにいられない

テレピン月日 作者:大竹 伸朗 晶文社 Amazon 『テレピン月日』大竹伸朗著を読む。 作者のデビューシーンは、鮮烈だった。ニューペインティング(懐かし!)がアートシーンで注目されていた頃。横尾忠則は画家宣言しちゃうわ。個人的には、ジュリアン・シュナ…

媚びずに、生きる女

流れる (新潮文庫) 作者:文, 幸田 新潮社 Amazon 『流れる』幸田文著を読む。 舞台は東京・柳橋、斜陽がかった芸者の置屋。そこで女中として働くことになったワケありの素人の中年女性が足を踏み入れることから小説は始まる。彼女の目を通して、柳橋界隈や花…

「建物はその建つ『場所』に従え」

前川國男 賊軍の将 作者:宮内 嘉久 晶文社 Amazon 『前川國男 賊軍の将』宮内嘉久著を読む。 江戸東京たてもの園に前川の私邸が移築されている。師匠のコルビュジエが晩年に建てた有名な南仏の小屋に勝るとも劣らない暮らしやすそうなモダンな木の家だった。…

「人間の知能」を紐解く古典的名著。ほんのさわりを

心の社会 作者:Marvin Minsky,マーヴィン・ミンスキー 産業図書 Amazon 『心の社会』マーヴィン・ミンスキー著 安西 祐一郎訳を読む。「人間の知能」を紐解く大著。章立てを眺めているだけでも楽しい。さわりだけ紹介。 ミンスキー教授曰く、「心とは、「一…

これでもか、これでもかと露わになる人間の暴力性、卑しさ

大丈夫な人 (エクス・リブリス) 作者:カン・ファギル 白水社 Amazon 『大丈夫な人』 カン・ファギル著 小山内 園子訳を読む。 人は理性や知性、常識でコーティングしているが、それがひょんなことで剝がれると野生、いや、野蛮、粗暴さが顔を覗かせる。見た…

近過去が消えてゆく都市、東京

郊外の文学誌 作者:川本 三郎 新潮社 Amazon 『郊外の文学誌』川本三郎著を読む。 東京で暮らし始めて、驚くのは、文学者の生誕の地や終焉の地だのといった碑に出くわすのが多いことだ。えっ、こんな繁華街に住居を構えていた? 一瞬、そう思うのだが、渋谷…

カリーと愛国―インド独立運動の志士だったボース

中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義 作者:中島 岳志 白水社 Amazon 『中村屋のボース― インド独立運動と近代日本のアジア主義』中島岳志著を読む。 パンとカリーで知られる新宿中村屋の婿殿となった亡命インド人過激派・ボースの数奇な一…

進化もしくは新化するマンガ。さて、マンガ評論はどうだ?

テヅカ・イズ・デッド ひらかれたマンガ表現論へ (星海社新書) 作者:伊藤 剛 星海社 Amazon 『テヅカイズデッド ひらかれたマンガ表現論へ』伊藤剛著を読む。 そういえば、山手線で高田馬場駅に到着すると、ホームから『鉄腕アトム』のジングルが流れる。か…

ロックンロール創世記、神話、叙事詩

ロックンロール七部作 作者:古川 日出男 集英社 Amazon 『ロックンロール七部作』古川日出男著を読む。 ワールドワイドなロックンロールの創世記、神話、叙事詩である。作者は村上春樹へのオマージュ本を出しているが、この本はひょっとして片岡義男の『ぼく…

クオリア学序説―「脳の中の1000億の神経細胞の活動から、クオリアに満ちた私たちの意識がどう生まれるか」

脳の中の小さな神々 作者:茂木 健一郎 柏書房 Amazon 『脳の中の小さな神々』 茂木 健一郎著 歌田 明弘 聞き手を読む。 相変わらず、脳ブームらしい。腸活の方がブームか。脳関連の本が多く刊行され、TVの特番などでも取り上げられることが多くて、脳研究も…

恨みはらさでおくべきか―お陀仏ホテル

大仏ホテルの幽霊 (エクス・リブリス) 作者:カン・ファギル 白水社 Amazon 『大仏ホテルの幽霊』 カン・ファギル著 小山内園子訳を読む。 『ニコラ幼稚園』という小説を書きあぐねていた作者。誰かが創作の邪魔をする。声がする。幼い時から、この声に悩まさ…

ヴィトゲンシュタイン・オタ 聖地巡礼へ

人生ミスっても自殺しないで、旅 作者:諸隈元 晶文社 Amazon 『人生ミスっても自殺しないで、旅』 諸隈 元著を読む。 ヴィトゲンシュタインを神のように崇める著者が、ヴィトゲンシュタインゆかりの国々をあてもなくさすらう旅。 その土地土地を訪ねてヴィト…

いまどきの子どもには、身体感覚が足りない

身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生 (NHKブックス) 作者:斎藤 孝 NHK出版 Amazon 『身体感覚を取り戻す―腰・ハラ文化の再生』斎藤孝著を読む。 身体論というと、哲学を齧ったことのある人なら、メルロー・ポンティや市川浩をイメージされるだろう。本書…

司祭P、女人国「アマノン国」へ―

アマノン国往還記 (P+D BOOKS) 作者:由美子, 倉橋 小学館 Amazon 『アマノン国往還記』倉橋由美子著を読む。 『ガリバー旅行記』を本歌取りしたような作品を書いてみたいと思う作家は、かなりの数いるのではないだろうか。現在、国内・国外での大きな問題や…

まっとうな日本語のまっとうな小説

もののたはむれ (文春文庫) 作者:松浦 寿輝 文藝春秋 Amazon 『もののたはむれ』松浦寿輝著を読む。 対談集『存在の絶えられないサルサ』(何回見ても、醜悪なタイトルだが)の中で、村上龍と柄谷行人の対談している章だったと記憶している。そこで、「日本…

のんしゃらんでいこう

いつか王子駅で (新潮文庫) 作者:敏幸, 堀江 新潮社 Amazon 『いつか王子駅で』堀江敏幸著を読む。 エッセイのような不思議な味わいの小説だ。長い文章なのだが、軽やか。主人公は、講師をしたり、翻訳、大家の孫娘の家庭教師などをしながら、のんしゃらんな…

17人の銀幕の女優―銀幕は死語か

君美わしく―戦後日本映画女優讃 (文春文庫) 作者:川本 三郎 文藝春秋 Amazon 『君美しく 戦後日本映画女優讃』川本三郎著を読む。 東京オリンピック以前の東京。それは、二度と戻ることのできない昭和の東京の原風景がある。アメリカ人にとってベトナム戦争…

分かり合える?分かり合えない?分かり合いたい

この世界からは出ていくけれど 作者:キム チョヨプ 早川書房 Amazon 『この世界からは出ていくけれど』キム・チョヨプ著 カンバンファ訳 ユンジヨン訳を読む。 意思の疎通の難しさ、マイノリティ(社会的少数者)の生きにくさや哀しさなどをテーマにした、やさ…

赤ちゃんは、おっぱい帝国主義者

ふにゅう 作者:川端 裕人 新潮社 Amazon 『ふにゅう』川端裕人著を読む。 『ふにゅう』といっても中華料理のあのクサい「腐乳」じゃない、「母乳」に対する「父乳」。 この本には、いまどきのいろんな夫婦が出て来る。男女雇用機会均等法ではないが、男女育…

まさか!著者死後60年に発見された未完の小説

戦争 (ルリユール叢書) 作者:ルイ゠フェルディナン・セリーヌ 幻戯書房 Amazon 『戦争』ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 森澤友一朗訳を読む。 その昔、セリーヌ著 生田耕作訳の『夜の果てへの旅』を読んで、痺れた。書名が『夜の果ての旅』だったはず。第…

ジジェクが目にしみる―誤読のすすめ

身体なき器官 作者:スラヴォイ・ジジェク 河出書房新社 Amazon 『身体なき器官 』スラヴォイ・ジジェク著 長原 豊訳を読む。 いままでいろいろ読んできたジジェク本の中で、ぼくには、いちばんポップで、軽いように思える(ジジェク本比)。標題はご存知、思想…

「謝罪」を哲学する

謝罪論 謝るとは何をすることなのか 作者:古田 徹也 柏書房 Amazon 『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』古田徹也著を読む。 たとえば企業が問題を起こしたとき、経営陣が一同で謝罪する。TVのニュースでおなじみのシーン。ただ謝るだけでは、説明不足、謝…

さよならは、別れの言葉じゃなくって

川島雄三、サヨナラだけが人生だ 作者:藤本 義一 河出書房新社 Amazon 『川島雄三、サヨナラだけが人生だ』藤本義一著を読む。 いまや伝説の映画監督となった川島雄三のもと、シナリオライターの卵、というかアシスタントとして作者は弟子入りする。男が男に…