『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記―1930‐1932/1936‐1937』(すごい邦訳)イルゾ・ゾマヴィラ編 鬼界彰夫訳を、少しずつ読んでいる。少しずつしか読めないんだけど。
テイストは、なんだろ、キルケゴールの『誘惑者の日記』に似ている。キルケゴールのことも何度か日記中に出て来るが。ブラームス、ブルックナー、ヴァーグナーなど音楽の言及もしばしば。ええとこぼんのウィトゲンシュタイン、兄は隻腕のピアニストとして知られる音楽一家。
天才哲学者の傲慢と自信のなさが見え隠れして、ついでに意外なことに恋愛感情も吐露していたりして、ファンにはたまらない。
彼の著作を読むと、結晶というのか、ほんとうに削ぎ落とされた冷晰な構文が連なっているのだが、この本は、日記で、当たり前か、日記マニアのぼくとしても、俗な一文を見ると、ついうれしくなってしまう。「死後42年を経た1993年に発見される」とは。
日記は「前半の『論考』から後半の『探求』」に至る間の時期に書かれたものだそうで、学術的には彼の哲学のコペルニクス的転換を知る上での貴重な資料にもなるとか。
日記をサラされたことに怒っているかもしれない。草葉の陰で「訴えてやる」とか。