ほっこり、ドッキリ、ざわざわ、にんまり

 

 

『お城の人々』ジョーン・エイキン著  三辺 律子訳を読む。

 

メルヘンのような、怪談のような、SFのような…。異なるいろんなテイストが楽しめる10の短篇奇譚集。1日1篇ずつ読んでは、「なるほど」とか、「そうきたか」と感心する。しちめんどくさい人文系の本を読んで凝り固まった頭を、思いきりほぐしてくれる。こりゃ、他の作品も読まない手はないぞ。何篇かのあらすじや感想を。


『ロブの飼い主』
サンディは犬のロブ(シェパード)と仲良しになった。残念なことにロブの飼い主は、コーンウォールから650㎞の遠方にあるリバプールに住んでいる。ところが、ロブがそこからやって来た。飼い主に送り返すが、懲りずに、サンディに会いに、二度も。飼い主はロブをサンディの家族に譲ると。
9年が経った。サンディは成長し、ロブは老いた。サンディとロブが散歩の途中、トラックにはねられる。危篤のサンディの見舞いに病院に祖母が来ると、ロブがいた。病室のそばでロブが哀し気な声をあげると、サンディが目を覚ます。父親が言うには、ロブはトラックに轢かれて死んでいた。病院にいた犬は…。犬の健気さに涙が出そうになる。うちには猫が三匹いるが、そんな期待は毛頭できない。

 

『よこしまな伯爵夫人に音楽を』
「小さな村に」赴任してきたボンド先生。学校の古いピアノで弾く音楽に生徒たちはうっとり。「お城の伯爵夫人に聴かせたい」と。村の女の子は卒業後、「お城への奉公」にあがるとか。ところが先生には森の中のお城が見えない。先生のピアノ演奏はお城でも評判になっていた。
お城ではハープ奏者が斬首されて以来、無音状態。夫人はしもべの乙女に先生の捕獲を命じる。術をかけると大概の人間は捕らえられるのだが、なぜか、先生は、かからない。夫人自らお城へ誘う。念願のピアノ演奏。しかもオリジナル曲を演奏する。その「不協和音」の凄まじさ。ジャイアンの歌声並みか。塔が崩れかねない勢い。夫人も乙女たちも逃げてしまう。

 

『最後の標本』
月に一度しか礼拝が行われない聖アントニオ教会。今日も70歳になるペンテコスト牧師が年季の入ったローバーでやって来る。牧師は教会の雑木林が気に入っていた。そこに見知らぬ少女がいた。彼女は「移植ごてとかごを持っていた」。不可思議ないでたちをしている彼女に、「珍しい野生のフリチラリア」の採取は禁じられていることを伝える。
遠方から来たという彼女。これで植物の標本がコンプリートすると。牧師は住まいの庭にあるフリチラリアなら取ってもよいと。どこから何のためにと牧師が訊ねる。地球の動植物などの採取・保存のために来た異星人か。試しに牧師の標本として私は、と聞くと、すでにコレクション済みだと。

 

『お城の人々』
幽霊が出るといわれるお城の一角に診療所があった。医師は、効率を最優先して治療に当たっていた。早く仕事を切り上げ、論文を進めたいからだった。ある日、若い女性・ヘレンがやって来た。色白で金髪、白いドレス。症状を聞いても答えない。効率第一の医師はイラつく。彼女は石板に「口がきけません」「なおしてください」と書く。彼女の咽喉を見ると脱脂綿のようなものが見える。ずるずると大量の脱脂綿が出て来る。ようやく取り終えると声がかすかに出るようになった。
彼女はお城の王女だった。予言通り呪いを解いた医師はヘレンと結婚する。ヘレンが診療所に来てから医師は別人のように明るくなり、繁盛する。王様から「思いやりのない言葉を口にしたら、娘は煙のように消えてしまう」と言われていた。
映画がすっかり気に入って見て来た映画のことなどを饒舌に話す彼女。うっかりして非難したら、ほんとに、消えてしまった。
失意の日々。診察以外は人と会わない。夜な夜な城跡で彼女の名前を叫んでいるとか。20年後、医師は著作で有名になったが、心は空洞のまま。ひょんなことから映画館に入る。女性が席を案内する。つまづきかけたら彼女が手を差し出した。懐かしい冷たい手。ヘレンだった。そして医師はヘレンと煙のように消えてしまった。

 

『ワトキン、コンマ』 
ミス・シブレイは見知らぬ大伯父から巨額の遺産を相続する。これを元手にケーキ店を始めようと決意する。銀行勤務の彼女、ケーキをつくった経験もなしに。なかなか良い物件がなくて苦労するが、小さな島の水車小屋を購入する。

「廃屋」をケーキ店兼住居にするため、大掛かりなリフォームを職人に依頼する。基礎工事中に棺が発見される。中には骸骨が。丁重に葬られてあった。郷土史家でもある検視官によるとカトリックのガブリエル神父ではないかと。
さらに職人らは隠し部屋を見つけた。そこに古い革表紙の日記が。神父が書いたものか。日記にはワトキン氏と共にいたと。神父は隠し部屋に匿われていたが、不幸な事故により孤独死・餓死したはずだと。ワトキン氏とは。
今度はシブレイが同じ目に遭う。閉じ込められて、なんとか平静を保とうとする。そこに、ワトキン氏が現われる。ケーキ作りは失敗の連続。お店がオープンできるのはいつ?

 

漫画化するなら、坂田靖子あたりに。アニメ化するなら、宮崎吾郎あたりに。いつものように勝手に妄想する。


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