元祖何でも見て野郎

 

 『ジョージ・オーウェル―「人間らしさ」への讃歌』川端康雄著を読む。

 

190㎝余りの長身痩躯、病弱なのにヘビースモーカー。
代表作である『動物農場』、『1984年』により「反ソ・反共」の作家とみられがちなオーウェル。著者は、そんなゴリゴリの右寄りの作家ではないと彼の人生を追いながら述べている。

 

「なによりも米政府が『動物農場』と『1984年』を積極的に冷戦プロパガンダに利用していったのである。そのように利用されるのはオーウェルの本心ではなかった」

 

ジョージ・オーウェル、本名エリック・アーサー・ブレアは英国・植民地ミャンマーで生まれた。家は「上層中流階級」で「母親から労働者階級の子と遊ぶのを禁じられた」という。「階級差」を刷り込まれたと。

 

学業優秀で「セント・シブリアン校」の特待生で入り、名門「イートン校に奨学生で入学」する。その頃家は経済的に決して豊かではなく、つまり金持ちのボンボンではない彼は大学進学しなかった。「イギリス帝国の警察官」となってミャンマーに赴任する。

そこでさまざまな矛盾、ひずみ、世の中の不合理さを感じる。


「イギリス帝国の公僕」なのに心の底では「帝国主義の権威」を嫌悪する。まもなく安定した地位を自ら下りて作家を目指す。

 

安吾いうところの「生きろ、堕ちよ」ではないが、庶民の極貧の生活をロンドンとパリで体験する。いまでいう潜入ルポ『パリ・ロンドン放浪記』を書きあげるが、なかなか出版されなかった。ようやく出版されても売り上げは芳しくなかった。

 

カタロニア讃歌』は、「スペイン内戦に参加した記録を綴ったルポ」。ここでオーウェルは「喉を撃ち抜かれる」。大男ゆえ格好の的だったのかもしれない。奇跡的に一命を取り留める。天の配剤か。あるいは『動物農場』、『1984年』を書くまで命の猶予を与えようという思し召しかも。

 

第二次世界大戦時、2年間BBCで「ラジオ番組とニュース番組の制作に」かかわる。

その放送を「ジャワ島のバタヴィア」で「海軍」に属していた鶴見俊輔が聴いていた。
なんか偶然とは思えない。著者は二人の共通性をあげている。上からではなく庶民視線から考えるあたりだろうか。


同世代のイーヴリン・ウォーとの交流があったことも知る。

「ウォーは数度オーウェルを見舞いにクラナム(結核サナトリウムに入院していた―註:ソネ)に訪れた。政治観も宗教観も正反対のふたりだが、同年生まれで、互いの著作に関心をもち、双方の書評を書き、手紙も交わしていたので、P・Gウッドハウスジーヴスものや少年週刊誌など、会えば話題は尽きなかったことだろう」

46歳で早世。
動物農場』は、確かに豚を時代の悪の象徴などとみれば新たな読み方ができる。
1984年』、意外に思われるかもしれないが恋愛小説として読めた。

 

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