オオサカといえばなおみ、ぼくの場合、最近オオサカといえば圭吉

 

死の快走船 (創元推理文庫)

死の快走船 (創元推理文庫)

  • 作者:大阪 圭吉
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
 

 

『死の快走船』大阪圭吉著を読む。
鮎川哲也編『怪奇探偵小説集1』で大阪の『幽霊妻』を読んだのが最初。

 

作風の異なる15の作品。ピッチャーなら七色の変化球というが、作家はどういえばいいのだろう。推理小説ならオチの冴え。獅子文六も真っ青なユーモラスな人情もの、岡本綺堂も真っ青な捕物帳など小説巧者ぶりが堪能できる。何篇か紹介。

 

『死の快走船』
岬の先端に立つ白亜の館。「主人のキャプテン深谷」は趣味のヨットでクルージングに出て殺された。そのむごい殺され方。事件の解明にあたる「私」と「水産試験所の東屋氏」。すばらしい結末。王道の探偵小説。

 

『水族館異変』
「水族館のパノラマ室」で水中を人魚のように潜水する女性二人と「香具師(やし)の男」。潜る女性のしなやかな肢体。三角関係のもつれ。伏字がいやらしさをあおるエロティックで凄惨な話。江戸川乱歩の『パノラマ島奇譚』の世界を小ぢんまりにしたような。

 

『三の字旅行会』
「東京駅の赤帽の伝さん」には気になることが。決まって「東京駅着午後三時の急行列車」の「三等車」「三輛目」で降りる女性たちがいる。彼女たちを出迎える手荷物を持つ男。男は『三の字旅行会』の「案内人」だった。そのいわれを聞かされる。ところが…。なんとなくホームズの『赤毛同盟』を思い出した。

 

『愛情盗難』
宇津君のアパートの同居人に「香水婦人」と呼ばれる人が。たおやかな貴婦人然としている。偶然同級生と再会して泥酔。部屋を間違え「香水婦人」の部屋で寝込む。はたと気がつくと「香水婦人」が。あわてて隠れる。「香水婦人」が大切にしていたものが盗まれる。当然、嫌疑は宇津君に。「香水婦人」の正体は。盗まれた大事なものは。

 

『氷河婆さん』
舞台はアラスカ。「ユーコン川上流の洞窟に」住むエスキモーの老婆。正気ではないと噂されていた。「私」が寄ると顔立ちが似ているせいか、しまいには身の上話をしてくれる。アラスカのゴールドラッシュで白人たちに翻弄されたエスキモーたち。ひどい仕打ちを受ける。鬼畜米英、黄色人種同士気分は連帯したのか。

 

茂田井武松本かつぢなどが描いた雑誌掲載時の挿画が作品に花を添えている。

小野純一の解題によると、戦時下、探偵小説はエロ、グロ、ナンセンスと並列して
国民の戦意高揚意識に水差すものと見られかねなかったそうだ。それから作者自身が「本格探偵小説」の枠から出たかった意向もあったとか。


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