小説の神様が微笑むまで

 

 
『マーティン・イーデン』ジャック・ロンドン著 辻井栄滋訳を読む。

 

主人公は貧しい若者。彼・マーティン・イーデンがハイソな年上の女性・ルースと出会う。彼女により、彼は文学に目覚める。それまでは無縁の世界。親が若くして亡くなり、勉強どころではなかった。現在は船員、海の男として稼いでいた。


彼がヘレン・ケラーなら、ルースはサリヴァン先生。マーティンは地頭が良かったのだろう、図書館に通って片っ端から本を読む。きちんとした教育を受けていないのに。無謀と彼女は思うが。作家になりたい。その強い思いから雑誌社や新聞社に詩や小説を投稿する。

「取らぬ狸~」で原稿料で何を買うか算段する。そう、うまくことは運ばない。ボツ、またボツ。しかし諦めない。原稿料がもらえなければ、生活は困窮する。しばらく働いて、稼いだ金で創作生活をするも、芽は出ない。いままであったことのないワイルドなマーティンに魅かれていたルースも、夢を叶えることは困難だと。学校に行って記者や弁護士になることをすすめる。しかし、諦めない。

 

ハイソな家庭ではルースにボーイフレンドができないことを不安に思っていたが、やっとできた彼がマーティン。でも住む世界が違うからやがて別れるだろう。そうしたら家に見合った男ができるだろうと。


演歌の歌詞なら、頭ではノーだが心ではイエス。なんとか作家で身を立てられるようになるまで彼は彼女に2年間の猶予を求める。投稿する切手代にも困るほど生活はひっ迫。ついには原稿料の取り立てに行く。元船員。腕っぷしには自信がある。1社は無理やり払ってもらったが、もう1社はなぜかケンカに強い担当編集者で負ける。取り立てはできなかったが、酒をごちになる。なかなか会えない二人。いつしか心の距離ができてしまう。

 

ダメかと思う寸前、大手出版社から採用通知が届く。風向きが変わった。上げ潮になった。ひっきりなしの原稿依頼。原稿料もあがる。世間が手のひら返し。しかし、いつまた戻るか。浮かれていないマーティン。以前は冷たかったルースの家族も寵児となったマーティンに手のひら返し。辟易。ルースがマーティンへの気持ちは変わらないと。うんざり。船に乗る。ただし、一等での船旅。


「自伝的小説」だそうだ。似た感じの本を読んだことがある。矢沢永吉の『成り上がり』だ。自分の夢への熱い思い。もっと言うなら梶原一騎原作の漫画のようでもある。もっともっと言うなら苦節何十年、無名でいきなり『M-1グランプリ』で王者になるような。もっともっともっと言うならブルース・スプリングスティーンの骨太なロック。

 

ひねくれているぼくだが、マーティンのまっすぐな生き方に心をつかまれた。映画化されたそうな。こちらも評判が高い。


映画『マーティン・エデン』予告編

 

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