「私」と娘―フリーセックス、ウィメンズリブからMeTooへ

彼女のことを知っている

『彼女のことを知っている』黒川創著を読む。

 

主人公は現在作家。50代になったいま、自身の恋愛体験や性について振り返る。父親として娘に赤裸々に語りたいのだが。1970年代から2020年代までの連作集。

 

『彼女のことを知っている』
ライターだった「私」に突然、映画プロデューサーから脚本を依頼される。原稿料は100万円。手付で50万円渡すと。経験はなかったが、なんとか原案を脚本にしようとするのだが。カンヅメになって脚本を書いていると、ふと子どもの頃、70年代の京都を思い出す。「ロシナンテ」というヒッピーたちが経営していた喫茶店。べ兵連(ベトナムに平和を!市民連合)に参加していた父親が喫茶店の経営にも協力していて、私は一時期そこが住まいのようになる。夜中にカレーの仕込みをはじめる。スパイスのあやしげな匂いが立ち込め、近隣の人びとは不安がる。フリーセックス、ウィメンズリブサルトルボーヴォワールジョニ・ミッチェル…。「ロシナンテ」も閉店。カウンターカルチャーに染まっていた京都も姿を変えていく。夢の跡。

 

『海辺のキャンプ』
引っ込み思案と思われていた娘がいきなり海辺でソロキャンプをしたいと言い出す。「私」は、海沿いにある出版社の保養所で原稿を書くので、そのそばならではと、しぶしぶ認める。夜、キャンプをしている娘の元へ。自身の性に関する話をはじめるが、娘はドン引き。奈良林祥の『HOW TO SEX』が出て来る。中高年世代には懐かしい。映画の脚本、書き上げたが原稿料は支払われず、制作会社は倒産、映画は頓挫する。


カトリーヌ・ドヌーヴ全仕事』
長年温めていた本の企画、それが『カトリーヌ・ドヌーヴ全仕事』だった。編集者も乗り気だったが、出版社の経営者が変わって…。語られるカトリーヌ・ドヌーヴの出演した映画と未婚の母となった生き方。俳優としての魅力。変わらない彼女の主張。そして全世界的に火がついた#MeToo運動。国書刊行会なら出してくれるかもしれない。もし、こんな分厚い本があったらぜひ読んでみたい。ジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』。悲しくも美しい絵のミュージカル映画だった。こちらも再見したい。

 

『いくらかの男たち』
「私」の初体験は15歳のとき。相手は28歳の女性。恋人もいた。「私」にもガールフレンドがいた。最初の結婚はうまくいかず、互いにバツイチ同士で再婚。40歳まじかで娘が生まれた。フリーライターから作家になって娘も大きくなった。京都に一人暮らしをしている母が倒れた。京都に戻ろうかとも。ふと、あの頃、28歳の女性のことを思う。


音楽、映画、絵画、演劇、恋愛。ネットもスマホもなかった頃の気恥ずかしいことや青くさいこと、甘酸っぱいことを思い出させてくれた。宇野亜喜良の装画が、どんぴしゃ!

 

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