きみをフィルムの中に幽閉したい

 

 

『潤一郎ラビリンス〈11〉銀幕の彼方』 谷崎 潤一郎著 千葉 俊二 編集を読む。

 

変格ミステリ傑作選【戦前篇】』竹本健治選で谷崎の『青塚氏の話』がおすすめの作品として取りあげられていた。それが収められているこの本を読んだ。

 

谷崎が一時期、映画製作にかかわっていたことは知らなかった。衣笠貞之助の『狂った一頁』の脚本家の一人に川端康成がいたことは知っていたが。

 

映画についてのエッセイを読むと当初は映画にかなり熱を入れていたことがわかる。
『『カリガリ博士』を見る』は、いま読んでも優れた論評だと思う。しかし、映画で自分のやりたいことがなかなかできなかったようだ。

 

作家は個人ワークだが、映画づくりはチームワーク。ビジネスゆえ当たらなそうなものは斬新な企画、芸術性の高い脚本であってもプロデューサーにはねられる。映画界でなまじっか成功でもしていたら、後年、大谷崎の小説は生まれなかったのだから、
ある意味、天の配剤といえるだろう。

 

さて、何作か、紹介。その変格、変態ぶりは、ヤバいっす。うまいっす。

 

『人面疽』
女優・歌川百合枝はアメリカ映画の出演経験がある。しかし、彼女が出演していないグロい作品が日本で上映されているという。映画は彼女が扮する花魁と乞食が恋愛関係になるが、花魁は彼をふる。ふられた男は恨みながら自殺。花魁の膝に腫瘍ができ、やがてそれは乞食の顔の人面疽に。彼女は映像は再編集によるでっちあげだと言うが、撮影スタッフの言によると、そうではない箇所があると。その真相は…。これ、いま、映像化してもウケると思うんだけど。


アヴェ・マリア
舞台は横浜。売れない作家であるエモリは洋館に間借りする。そこの同居人である亡命ロシア人母娘と懇意になる。彼女たちは上海で暮らすという。外国人居留区のような暮らしはハイカラでまんざらでもない。彼は原稿料をバンス(前借り)して二人に餞別として渡す。金はないが、のんしゃらんな日々。近所の外国人の子どもが風呂にはいっていないのか臭う。風呂を沸かして体を洗ってあげる。外国人の子どもの体や肌などの描写がなんつーかエロい。

 

青塚氏の話』
映画監督・中田は女優由良子と結婚する。中田は夫であり、女優の育ての親でもあった。中田は肺病を病み、須磨の海沿いの別荘で静養していたが、亡くなる。

由良子は夫の遺書を見つける。そこには、カフェで知り合った男のことが書いてあった。彼は由良子の熱狂的なファン、今でいう推しだった。男はスクリーンで見た由良子の体の特徴を話す。ことごとく当たっていて気味悪さを感じる。しまいには中田は由良子の夫だが、私はスクリーン上の女優・由良子の夫であると言い出す。


嫌がる中田を自宅まで招く。そっくりな妻に会わせると。実は精巧にできた人形。なんと十数体もあった。リアルかヴァーチャルか。複製(コピー)がオリジナルを凌駕する。編者は、解説でベンヤミンの「アウラ」を引き合いに出しているが、アイドルの語源である偶像を想像させる。


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