- 作者: 長谷川郁夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (15件) を見る
『吉田健一』長谷川郁夫著を読む。
結構分厚くて、移動中には適さない。
吉田健一に興味がある人ならば、うってつけの評伝。
評伝には、その人を知っていて一次情報と二次情報を織り交ぜ
書いたものと、まったく面識がなく、二次情報のみで構成したものとがある。
この本は前者。吉田の最盛期あたりに作者は編集者、パブリッシャーとして
つきあいがあったようだ。
吉田健一は主に随筆を読んだ。翻訳書を読んだ。
『吉田健一集成』を端本で持っていたが、
何年か前にネット古書店に売り払った。
改めて知ると、オンリーワンな作家だということがよくわかる。
帰国子女。イギリス人以上に英語がわかるとされ、
ついでにフランス語にも長け、
おまけに名家の出身、父上が吉田茂。
御曹司中の御曹司。
以下この本でへえと思ったところを。
○青山二郎の青山学校で酔った中原中也に絡まれたこと。
中原の方が5歳年上か。語学力への嫉妬だったのか。
○やはり作家というよりも翻訳家の印象が強かったとか。
作者の書いた小説は、俗にいう時代より早過ぎて、
なかなか理解されなかった。
○『乞食王子』『三文文士』など自虐的な表題の著作があるが、
戦後、ボロい兵隊服スタイルで出版社へ翻訳原稿を
持ち込んでは、その場で原稿料をもらって、帰りに一杯やっていた。
○戦後の翻訳ブームで翻訳原稿料や印税を当て込んで
家を建てようとしたした話。でも、思うようにいかなかった。
○篠田一士、佐伯彰一や丸谷才一など、若い同好の士が見つかるなど、
吉田健一の世界はじわじわ浸透していく。
○文芸批評を担当して水上勉などの作品を激賞する。
純文学と大衆文学がアパルトヘイトされていた時代に。
すかしたおイングリッシュやお文学は、
嫌いだったんだろう。
お坊ちゃま然とした風貌だが実はかなりシニカルな紳士。
フェアでアンフェアな人。
鯨のように飲んで、象のように訳して、
馬のように書いた。
というタイトルだが、ピンと来ただろうか。